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第57話
「……だよね、ぇ」
「…」
「でも、そっか。俺みたいなのが好みってことは、俺が女だったらどんぴしゃってことだね」
「へへへっ」と動揺を誤魔化すように笑ってみると、碧生はほのかに微笑み返してくれた。
慣れた手つきで眼鏡の柄を触り、小さく首を横に振る。
「…毬也は、女じゃなくていい」
「え」
「毬也は、毬也のままでいい」
「…」
…やだな、碧生。
そんなこと言われたら、俺…、ほんと。
どうしたらいいのか、もうわかんないよ。
すぐ後に百合亜ちゃんから御飯の呼び出しがかかって、リビングへ下りて一緒に晩御飯を食べた。
久しぶりの碧生の登場ということもあってか母さんが妙に喜んでいて、家族の輪の中でずぅっと盛り上がっていた。
結局、気が付けば23時になっていて、碧生は隣の家へ帰って行った。
ぽつんと、一人きりの部屋。
ついさっきまでは、みんながワイワイ集まっていて。
ほんの何分か前までは、碧生が居た。
…なんか、淋しいんだけど。
はぁ…と溜め息を吐いて、ベッドの上に座る。
壁に背中をもたれかけて、もう一つ大きな溜め息を吐いた。
…俺は、どうしたらいいんだろう。
勝手に喜んだり、落ち込んだり、また浮上したり。
一挙一動が、全部碧生に支配されてるみたい。
空回り。一人相撲。
…おかしいな、こんなの俺じゃない。
感情の名前は、もうとっくの間に解っていた。
でも、認めるのが怖い。
認めてしまうと、本気で突き進んでしまう。
『…毬也じゃない』
…そう言われたばかりだと言うのに。
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