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第58話
「まりーっ」
ガンっと蹴るようにドアを開けられる。
めんどくさくて視線だけを向けると、百合亜ちゃんが「はっ」と呆れたように笑った。
腕を組みながら、威圧的なオーラを全体にまとい、ベッドの上にどかっと座る。
スプリングが軋んで身体がぐらりと揺れたから、軽く睨み付けた。
「…なに」
「あんた、なんて顔してるの」
「別に」
「仮にもカッコイイって言われてるんだから、もっとちゃんとした顔しなよ」
「家の中なんだから、関係ないじゃん」
「あるわよ。日頃の意識が大切ってね」
「…」
クスクスと百合亜ちゃんが楽しそうに笑ったけど、応える気にはなれない。
むしろ、百合亜ちゃん相手なのに、今目の前で意味のない用事で話しかけられていることにちょっとイライラさえした。
百合亜ちゃんに苛立ちをぶつけたところで、倍になって返って来るのは分かってる。
だから、睨み付けるくらいしか気持ちをアピール出来ないのだけれど。
そんな俺の内心を察してか否か、百合亜ちゃんはにっこり満面の笑みを浮かべた。
「ひっさびさに碧生と話したわ。三か月ぶりくらいかな」
「…ふーん」
「メールはちょくちょくしてたんだけどね、あんたと違って」
「……」
「ちょっと碧生変わったわね」
「…そう?」
「うん。なんか前より明るくなった」
「…へえ」
「へえって、あんたの影響なんでしょ。見てたら分かるわよ」
「…」
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