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第59話
俺の影響って。
俺は、碧生を変えるなんて大層なことは何もしてない。
…最近知ったことは、碧生の方がたくさん成長して大人になっていたということ。
弱くてかわいいだけの碧生じゃなくて、強くてかわいくて綺麗な碧生になっていた。
俺の影響なんかじゃないよ。
離れていた間に、碧生が勝手に大人になっただけ。
無意識に拗ねたような目をしていたらしい。
百合亜ちゃんは「きもちわるーい」と大笑いしてベッドの上で転げ回りながらおなかを抱える。
一通り笑い終えた後、すっと立ち上がり首だけで振り返った。
目尻にたまった涙を吹かないまま、石にでも変えられそうなほどじぃっと見つめられて、心の中を見透かされているようなこそばゆい気持ちに包まれる。
「…なに」
「あんたさ、碧生のこと好きでしょ」
「は?」
「しかも、恋愛対象として見てるでしょ」
「…」
百合亜ちゃんは、確信したうえで断定した台詞を投げつけた。
有無を言わせない迫力に、思わず押し黙ってしまう。
あおいのことがすき。
…好き。
ついさっき俺が背中を向けた言葉。
否が応でも目の前に差し出された二文字が、はっきりとした形になってじわりじわりと込み上げる。
「…な、んで」
「質問に質問を返さないで」
百合亜ちゃんは元々頭の良い子だし、猫かぶりの天才だから、他人をよく観察しているんだろうと思う。
前に、一言二言話せばどういう人間か大体分かるって言ってたし。
晩御飯の時。
でも、短時間…、しかも俺と碧生はほとんど会話をしていない。
そんな中で、気付かれちゃったの。
俺、態度に出てた…?
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