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第60話
戸惑いが身体中を駆け巡って、小さな迷いが押し出される。
自分の身体なのに、すごくリアルにその瞬間が分かった。
息をすることすら忘れて、少し掠れた声で吐き出した。
「……好きかもしれない」
「かも?」
「…好き」
途端、つま先から熱いものが湧き上がって一瞬で耳まで赤く染まる。
何、俺。
なんで、こんな。
わかんない。…分からない。
視界すらぼんやりして、百合亜ちゃんがどんな顔しているのかさえ頭に入って来ない。
言葉にするだけで、こんなに現実味を帯びるなんて知らなかった。
「…碧生を抱き締めたいとかキスしたいとか思っちゃってた」
「ふーん」
「…恋愛感情ってやつだよね、これ」
「あんたがそう思うんなら、そうなんじゃない」
「でっでも」
「ん?」
「男同士だし…おかしいよね」
「…」
「……俺、…ホモになっちゃったのかな」
ぼそっと呟いた言葉に、百合亜ちゃんは「ぷっ」と吹き出した。
優しさからなのか、笑い転げたりはせずに口元を手で覆い隠す。
…かすかに肩が震えてるから、堪えてるの分かるけど。
「あんたがホモになったら、学校は平和で助かるわね」
「……ひどいよ、百合亜ちゃん。本気で悩んでるのに」
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