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第66話
「…っ」
同じようなタイミングで、イッちゃったのは俺の方だった。
しかも、ティッシュさえ間に合わず、手のひらに嫌な生温かいものを感じる。
ううっ、挿れる妄想まで保たなかったじゃないか!
俺の馬鹿!ばかばかっ!!
なんて、もったいないんだ。
ほんの少し上がった呼吸で、重たい瞼を持ち上げる。
目の前に在るものが、現実。
俺の部屋で、ひとりで、ベッドの中。
熱くなった思考がゆっくりゆっくりと動き始めた。
…抜けちゃった。
なんの抵抗もなく、抜いちゃったよ。
むしろ、いつもより盛り上がっちゃ…。
『抜けたら、きっと恋ね』
はぁ…と、大きく息を吐き出す。
これは、溜め息じゃなくて。
覚悟だろうか、決心だろうか。
心の中は満たされていて、今まで感じたことがないほどスッキリしていた。
俺は、碧生が好き。
碧生に、恋をしている。
だから、抱き締めたいし、キスしたいし、抱きたい。
当然の欲望で、何を後ろめたく思う必要はない。
碧生が欲しい。
でも、恋がひとりぼっちなのは嫌だ。
碧生にももちろん俺のこと好きになってほしいし、求められたい。
そのためには、好きになってもらうために精一杯頑張らなきゃ。
男同士だって、きっと頑張ればなんとかなる。
だって、碧生の好みは俺(みたいなひと)って言ってたし。
初めての恋、実らないとかそういうジンクスなんて俺が壊してやる…!
俺は、きっと本気も何も知らなくて、しかもヒトから好きになってもらう大変さも知らなくて。
与えられた甘い汁ばっか吸って生きて来たんだって、気付いていなかった。
恋の辛さや大切さなんて、何も知らなかったんだ。
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