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第68話
「…毬也」
「どうしたの」と、声なき声で呟かれる。
俺は満面の笑みを浮かべて、碧生の頭を撫でた。
「一緒に行こうと思って、待ってた」
「…まだ、8時前だけど」
「うん、知ってる」
「……」
碧生は怪訝そうな顔を露わにしたけど、「いこっ」と笑顔で促すと、つられるように「うん」と微笑み返してくれた。
うん、いー朝なんじゃない。
好きだと自覚したら、碧生とずぅっと一緒に居たいと思った。
ずっとというのは、とても抽象的で分かりづらいけど、とにかく『出来る限りずっと』一緒にいたい。
一人暮らしをしていない実家暮らしの高校生である俺たちは、ずっとといってもすごく限られている。
家が隣同士だからといったって、やっぱり小さな頃とは違うから毎日泊まるようなことは出来ないし。
お互いどうしても自分の時間はあるし、…俺も碧生と一緒に居れない時間は有るし。
だから、出来る限り一緒に居れる努力をする。
それが、恋を知らない俺の出した答えだった。
朝一緒に行って、教室でも隣に居て、放課後は碧生を待って一緒に帰る。
一緒に居れば、碧生がされて嬉しいことも嫌なこともきっと気付くことが出来る。
出来れば、碧生の喜ぶようなことをしてあげたい。
好きになってもらうには、それしか思い付かなかった。
「…毬也、早起きしたの」
花の香りが混じった初夏の風に吹かれながら、碧生が言う。
「早起きしたよ」
「…朝当番?」
「違うー」
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