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第71話
「…ごめんなさい」
「いえいえ~、もう慣れました」
「あ…、日野君」
谷崎さんが、さっさと自分の席へ座った窓際の碧生の元へパタパタと走る。
だーれもいない広い教室に、碧生と女の子が並ぶ。
「…」
え、なになに。
この二人って、話す仲なの。仲良しなの。
…知らないけど。
静かすぎる教室で、ふたりの話し声は当然はっきりと聞こえた。
「はい、昨日言ってた本」
「……有ったの」
「うんっ、苺原の本屋さんに有ったの。あんなに大きな本屋さんで探したのになぁ」
「…」
「…日野君って、後ミステリー系が好きなんだよね」
「…うん」
「ひびのもえ、って知ってる?」
「……持ってる」
「ほんとに!?」
「…貸す?」
「うんっ、読みたかったんだぁ」
…日々の萌え?
何それ、なんかのアニメ単語?
てか、この二人…モノとか貸し合う仲だったの。
そんなの、ほんと知らないよ。
ムカムカと込み上げるのは、きっとヤキモチって感情だ。
片肘をついて、楽しそうに話すふたりを眺める。
唯一救われたのは、碧生がいつも通り無表情であることだった。
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