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第72話
……いつも朝二人きりで、こうやって話してたのかな。
楽しそうに、本の話とか勉強の話…とか?
そういや、碧生ってモテるんだっけ。
実は谷崎さんも碧生が好きなの。
…もしかして、碧生がいつも早目に出てたのって谷崎さんと話すため…?
まさか、この二人、もう付き合ってるの…。
考えた瞬間、胸の奥底あたりが痛くなって気持ち悪くなったから、思わず立ち上がった。
ガタンっと朝の静寂に似つかわしくない大きな音が響いて、二人が一斉にこちらを向く。
目を合わせず、逃げ出すように教室を出た。
「…まりやっ」
遠いところで碧生の声が聞こえた気がしたけど、立ち止まる余裕すら無かった。
やだやだ、碧生が誰かと付き合ってるとかすごいやだ。
碧生が誰かと仲良く話してるなんてすごいヤダ。
碧生をどっかに繋いで、俺だけのものにしたい。
どうしよう。
俺、どうしよう。
この心をどうしていいのかわからない。
何かにぶつけて、粉々に砕いてしまいたい。
いっそ、碧生ごと壊して…。
駄目、何考えてんの。
碧生の喜ぶようなことして、好きになってもらいたいって、誓ったばかりなのに。
こんなんじゃ好きになってもらうどころか。
「毬也っ」
人気の無い水飲み場へ足を踏み入れた瞬間、ブレザーの裾を引っ張られる。
碧生の俺を呼ぶ声が大きめに響いて、呼応するように心臓が鳴った。
おそるおそる振り返ると、碧生が心配そうに俺の顔を見上げている。
…追いかけて来て、くれたんだ。
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