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第77話
胸のあたりが、痛い。
抱き締めたりしなきゃ良かった。
でも、抱き締めたかった。
碧生は応えてくれなかった。
あのまま流されてくれたら…とか、何処かで思ってたのに。
有無を言わせずキスをしたり押し倒したりすれば、こんなに苦しくなかったのかな。
…気持ちを飲み込んでるから、辛いのかな。
女の子って、付き合う前どうやってくれてたっけ。
電話番号交換して、毎日のように連絡を取り合って、ふたりで遊んで、…告白。
周りの仲間とは違う、ふたりで居る特別感が徐々に芽生えて、それが優越感になってきて。
優越感でいっぱいになって来た時に、タイミング良く「好きだ」って言われてた。
その時はもちろん断る理由なんてなくなってるから、承諾して、…。
じゃあ、俺と碧生の場合は?
毎日会ってるし、ふたりで帰ったり、部屋で話したり。
それが当たり前だから、今更優越感なんて芽生えるはずもない。
俺は『好き』になったから、優越感…というよりは嬉しさでいっぱいなんだけど。
碧生にとっては、嬉しいというよりは当たり前だった生活が戻ってきたって感じだよね。
…告白、しちゃえばいいのかな。
好きになっちゃったって言えば、碧生も俺を恋愛対象として意識してくれるようになるのかな。
…嫌だって言われたら…?
ううん、碧生は絶対俺に直接「嫌」とは言わない。
それよりも、嫌な顔をされたら…?
幼馴染という関係があっさり崩れて、一緒に居る時間さえなくなってしまったら…。
こわい。何よりも、一緒に居れなくなることがこわい。
…こわいよ。
「…毬也?」
机を挟んで目の前、碧生が俺の顔を覗き込むように首を傾げる。
「あっ、ごめん。考え事してた」
あははっと笑って、教科書をぺらぺらとめくる。
碧生の視線が、俺の額に突き刺さっているのを感じた。
そんな、見ないでよ、碧生。
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