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第78話

 学校での時間は、朝以外何事もなく過ぎた。  ヤスと礼二と女の子たちが居てくれたから、ぐちゃぐちゃに気持ち悪い心を少し紛らわすことが出来たし、碧生にも普段通り接することが出来たと思う。  普段通りとは、自分の気持ちを認めたうえでの『幼馴染』としての普段通り。  好きだと認めてからは、みんなの前で無駄に意識する必要もなくなったので、気持ち的には楽になった。  ま、前以上に碧生にだけ優しいって、ヤスにはやきもちをやかれたりするんだけど。    つまりは、抱き締めた事実を掻き消したうえでの「普段通り」だ。  そのまま放課後になって、図書館で少し寝て、碧生の部活が終わった。  二人だけで家に帰る、街灯だけの真っ暗な道。  一番意識してしまっていたのは、やっぱり俺で、ほとんど何も話さずにずぅっとどうしたらいいか考えていた。  ぐるぐるぐるぐる、頭の中は同じことを何度も繰り返す。  碧生は何度も何かを言いかけていたけど、「ん?」と聞き返すと首を振ってその言葉を飲み込んでいた。  そんな空気のまま、朝約束した通り、今俺の部屋で数学の宿題をやっている。  俺のノートは、未だ真っ白なまま。 「毬也」 「ん?なに」  何も読んでないくせに教科書から目を離さずにいると、碧生の小さな小さな溜め息が耳を掠めた。 「……毬也、やっぱり」 「ん」 「…やっぱり、最近おかしい」 「…」  二度目。  あんなに遊んでた俺が彼女を作らず、碧生から離れたくないと言ったり。  みんなと居るのに、突然ひとりで部屋を飛び出したり。  朝、登校時間合わせたり。  さっきまで上機嫌だったのに、イライラして教室から出て行ったり。  あまつさえ、抱き締めたり。  おかしくない態度ではない。  冷静に思い返してみたら、なんて分かりやすいんだろう。俺。

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