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第85話

 百合亜ちゃんの柔らかい微笑みに、応えるよう碧生がにっこりと笑う。  …その笑顔。  俺だけの特権、だったはずなのに。  この二人って、そんなに仲良かったっけ?  こないだ一緒に晩御飯食べた時は、母さんが居たからあまり話してなかったけど。  百合亜ちゃんは『久しぶりに話した』って言ってた。  碧生だって、学校では百合亜ちゃんと話してないって。  学校では…?  連絡は取り合っていたってこと?  実は、俺の知らないところでこの二人、すっごく仲良かったの…?  じんわりと、心音に混じって嫌な予感が身体中を流れ込んでいく。     「あ、ちょっと待ってて。碧生」 「うん」  百合亜ちゃんがバタバタと走って自分の部屋へ行き、30秒も立たない内に戻って来た。  手の平に握られていた何かを、碧生の目の前へ差し出す。  真っ白に輝く、小さな石。  碧生は石と百合亜ちゃんを交互に見てから、口を開いた。 「…百合亜」 「これ、返すね」 「……」 「私にはもう必要じゃないと思うの」 「…百合亜、これ」 「ね?」 「……」  百合亜ちゃんは今まで俺にさえ浴びせたことのないほどの優しい笑みを、碧生へ向けた。  碧生は戸惑うように目を揺らした後、やっぱり微笑み返して、その石を受け取る。  なに、それ。    石…?碧生が百合亜ちゃんに渡してたの?  いつ?なんのために…?  聞きたいけど、聞けるはずがない。  百合亜ちゃんは碧生しか見ていないし、碧生も百合亜ちゃんしか目に入ってない。

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