88 / 138

第88話

 *  小さな頃を思い出してみても、百合亜ちゃんと碧生がすごく仲良しである姿が浮かんで来なかった。  それもそのはず。  碧生は俺にべったりだったし、百合亜ちゃんは小さな頃から百合亜ちゃんのままだった。  幼馴染として、それなりに仲は良かったけど…。  だから、あの二人の親密な空気は、本当に本当に予想外だったんだ。  モノを交換したり、自分が出演する演奏会に誘ったり。  …躊躇いなく、前髪に触ったり…。  …もしかして、中学の頃付き合っていたんだろうか。  百合亜ちゃんが誰と付き合って誰と別れて…なんて、知らない。  もちろん、碧生の恋愛遍歴だって知らない。  どっちから告白したの。  碧生が百合亜ちゃんを好きになったの?  百合亜ちゃんから…っていうのは、想像出来ないし。  今は?今も付き合ってるの?  …でも、百合亜ちゃんは俺の恋を応援するって言ってくれた。  ……今は別れてて、碧生が引き摺ってるだけ…とか?  嫌だ。嫌だ、どうしよう。  過去に百合亜ちゃんと付き合ってたってだけでも吐きそうなくらいの嫌悪感なのに。  今でも碧生が百合亜ちゃんのことを好きだと考えると、苦しいを通り越して、痛い。  痛い、痛い、痛い。  …俺が、百合亜ちゃんに勝てるはずない。  男である時点で、勝てるはずがない。  …じゃあ、この恋はどうしたらいいの。  破れるって分かりきっている恋心って、どうすればいいの。  告白して、振られて、そのままバイバイすればいいの。  幼馴染という関係も壊して、完全な他人に戻ればいいの。  …わかんない。  全然、わかんない。  だって、振られても…碧生が百合亜ちゃんしか見てなくても、俺は碧生が好きだもん。  どんだけ傷付いても、忘れられる気がしないもん。  ほんと、もうどうすれば。  誰か、教えてよ。

ともだちにシェアしよう!