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第89話
*
「…はぁ」
いつも通りにぎやかな教室に、全く不似合いな溜め息を響かせる。
あの百合亜ちゃんとの一件の後も、頑張って頑張って碧生には普通の態度をしていた。(と、思う)
何度か、本当のことを聞こうと試みたけど、やっぱり聞けなくて。
幼馴染として好きだ、と言った碧生の言葉を信じたくても信じれなくて。
顔では笑ってたけど、心の中はぐっちゃぐちゃだった。
碧生は、当然そんな俺に気付いているだろう。
でも、何かを問うてくることはなかった。
「あらあらあらあら、どうしちゃったんだぁ~まり」
ヤスがニコニコ笑いながら、俺の机にドカッと座る。
なんでそんなに嬉しそうなんだよ。
「イイ男が溜め息なんか付いちゃったら、似合うだけで腹立つじゃないかぁ」
「…うっさいよ、ヤス」
「なになに?何が有ったの?俺、今までまりが溜め息吐いてんの見たことないんだけど~」
「俺だって、溜め息吐くことくらいあるよ」
「えぇーっ、うっそだー!」
「…何それ」
「だって、まりは溜め息吐くくらい物事を深く考えないじゃん」
「…」
…ヤスのくせに。
ヤスなのに、的確な台詞を言うなんて。
思わずへらっと苦笑いを浮かべると、ヤスが予想通りの台詞を吐いた。
それを見越して、同時に立ち上がる。
「恋煩いだろー?教えてよ、まり~!」
少し離れた自分の席で、碧生がこっちを見ていた。
その視線を浴びながら、たとえ相手がヤスだって上手に誤魔化せる気がしない。
ぽんぽんっとヤスの頭を叩いて、教室の出口へ歩き始める。
「あぁっまり、逃げた!何処行くんだよぉ」
「…保健室」
「仮病だろっ!戻って来いよぉお」
「バイバイ」
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