90 / 138
第90話
教室を出た途端、はぁ…ともう一つ大きな溜め息を吐いた。
教室だとゆっくり悩むことも出来ないな。
かといって、一人で居るとよくないことまで考えてしまって辛いし…。
後ろから、俺の歩幅に合わせて歩く足音があることに気付いていた。
…碧生、かな。
碧生が追いかけて来てくれたのかな。
俺が逃げ出すとき、碧生は必ず追いかけて来てくれる。
ドキドキ、期待と複雑な気持ちで高まる心臓。
足は保健室ではなく、人気の無い水飲み場へ向かった。
「…まり」
「…」
声主は、碧生では無かった。
この低い声は、礼二。
…紛らわしいんだよ!
でも、碧生じゃなくて良かった…ような気もする。
この水飲み場は、碧生を抱き締めちゃった場所。
こんな感情を抱えたままじゃ、抱き締めるだけじゃ済まないかもしれないし。
逆に、何も出来ないかもしれない。
はぁ…と小さな溜め息を吐き出して、苦笑を浮かべて振り返る。
「あれ、どうしちゃったの礼二」
「…どうしちゃったの、はお前だ。まりや」
「なにがー?こんなとこまで追いかけて来るなんて、まさか告白じゃないよね」
「馬鹿言うな。そして、誤魔化すな」
礼二は呆れたような溜め息を吐いて、眼鏡の柄を中指で押した。
レンズの奥から鋭い視線が浴びせられる。
「…何」
「お前が隠す気ないようだから、はっきり聞くぞ」
「…、…うん」
「まり、碧生君と何が有った?」
ともだちにシェアしよう!