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第90話

 教室を出た途端、はぁ…ともう一つ大きな溜め息を吐いた。  教室だとゆっくり悩むことも出来ないな。  かといって、一人で居るとよくないことまで考えてしまって辛いし…。  後ろから、俺の歩幅に合わせて歩く足音があることに気付いていた。  …碧生、かな。  碧生が追いかけて来てくれたのかな。  俺が逃げ出すとき、碧生は必ず追いかけて来てくれる。  ドキドキ、期待と複雑な気持ちで高まる心臓。  足は保健室ではなく、人気の無い水飲み場へ向かった。 「…まり」 「…」  声主は、碧生では無かった。  この低い声は、礼二。  …紛らわしいんだよ!  でも、碧生じゃなくて良かった…ような気もする。  この水飲み場は、碧生を抱き締めちゃった場所。  こんな感情を抱えたままじゃ、抱き締めるだけじゃ済まないかもしれないし。  逆に、何も出来ないかもしれない。  はぁ…と小さな溜め息を吐き出して、苦笑を浮かべて振り返る。 「あれ、どうしちゃったの礼二」 「…どうしちゃったの、はお前だ。まりや」 「なにがー?こんなとこまで追いかけて来るなんて、まさか告白じゃないよね」 「馬鹿言うな。そして、誤魔化すな」  礼二は呆れたような溜め息を吐いて、眼鏡の柄を中指で押した。  レンズの奥から鋭い視線が浴びせられる。 「…何」 「お前が隠す気ないようだから、はっきり聞くぞ」 「…、…うん」 「まり、碧生君と何が有った?」

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