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第91話

「…」  何って。  特に『碧生と』何かが有ったわけじゃない。  …多分、碧生と何かが有ったなら、こんなに悩んでいない。  困って様に微笑んで、首を振る。  礼二は納得したように「そうか」と言った。  そして、予想していた言葉を子供を諭すような優しい声で吐き出した。 「…まり、お前、碧生君に恋をしてるんだろう?」  礼二には、気付かれていると思ってた。  気付いてて、あえて何も触れないでいてくれてるのも、分かってた。  でも、本気で困ったときには手を差し伸べてくれる。  礼二は、本当に優しい。  今更誤魔化す気も更々ないので、にっこり笑って長めの髪を掻き上げた。 「うん、碧生が好き」 「本気なのか」 「…本気、みたい。初めてだからよくわかんないけど」 「そうか」  同じ男なのに、おかしい。  礼二はそんなことを一切言わずに、真剣な顔のまま水飲み場の縁に腰を下ろす。  もう一度眼鏡を触り、見上げるような視線で口を開いた。 「…で、何が有ったんだ」 「……なにって」 「お前、恋愛したことないだろ?だからそんなに余裕が無いんだ」 「…俺、余裕無いかな」 「無いな。今のお前は、誰が見ても悩んでてイライラしてるのが分かる」 「…」 「現に女の子達が話しかけないだろ?」 「ははは、確かに」

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