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第94話

 初恋は、実らない。  そんなジンクス、俺が壊してやる。  精一杯頑張って、絶対碧生に好きになってもらうんだ。  好きだと認めた時は、そう考えてた。  根拠は無かったけど、絶対実現出来ると思ってた。  でも、現実は全然違う。  頑張って早起きして一緒に登校しても、教室で女の子にやきもちやく自分。  碧生の不安を利用して、抱き締めてしまった自分。  一人空回って、悩んで、ただただ碧生に心配かけてるだけの自分。  碧生が、百合亜ちゃんを好きかもしれない現実。  どうして、うまくいかないんだろう。  どうして、俺は男で碧生も男なんだろう。  …そういえば、前に碧生に「毬也は女じゃなくていい」って言われたっけ。  これって、俺と碧生が同性で、幼馴染だから、ずっと一緒に居られるって意味なのかな。  百合亜ちゃんは女で好きになっちゃったら辛いだけだから、毬也は男でいいって意味なのかな。  そう考えると、すごくしっくりくる。  …なんか、もうそうとしか思えない。  じゃあ、俺の恋心なんて抱いただけで、碧生に対してひどいことしてるんじゃないの。  …根底から、碧生の嫌がることをしてるんじゃ。 「…なんか、もうよくわかんない」  眉間に皺を寄せて、はぁ…と大きな憂鬱を吐き出した。  礼二が眼鏡を掛け直して、困ったように微笑む。 「お前は、逃げ腰なんだな」 「逃げ腰?」 「当たって砕けろ的な熱いパッションを全く感じない」 「パッションって」  あまりに似合わない単語に、思わずクスクス笑ってしまう。  礼二は合わせるように「ははは」と軽く笑い声を上げた。

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