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第96話
返す言葉を見つけられず俯いていると、礼二はふっと優しく笑い、俺の肩を叩いた。
ぽんぽんぽんっと、三回。
思わず泣きそうになったから、必死に眉根を寄せて耐える。
「まり、俺はお前がどっちを選んでも応援するぞ」
「…れいじ」
「みっともなく足掻いても、恋心封印して女の子達とまた遊び始めても」
「…ありがとう、礼二」
「いえいえ」
「…礼二は、本気の恋をしたことあるの」
「あるぞ。俺は振られたがな」
「……そっか」
にっこり、礼二が笑う。
もう一度俺の肩を叩いて、礼二は水飲み場から出て行った。
一人取り残された薄暗い水飲み場で、ぽたりぽたり滴る透明な雫を見つめる。
みっともなく足掻いて、碧生に全力でぶつかる。
たとえ、碧生を困らすことになっても、碧生の嫌がることだとしても。
好きだと言う気持ちを隠して、消して…、碧生の望んでいた幼馴染の親友関係を続けて行く。
ずぅっと。一生。
お互い連れ添う相手が出来ても、決して離れない関係。
碧生…。
碧生は、どっちがいい?
きっと、碧生が選ぶであろう答えは分かっていた。
簡単なことだ。
だって、碧生は何度も言ってくれた。
『俺から離れたくない』
と。
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