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第97話

「…まりくん?」  突然名前を呼ばれて、身体がビクッと揺れた。  思わず睨むように目線を上げると、おどおどっと俺の様子を窺うおんなのこが立っていた。  この子は、知ってる。  知ってるというか、付き合ってた子。  一方的に、俺の都合だけで別れを告げてしまった子。  優樹菜ちゃんだ。  …なんで、ここに?  告白の用事でもない限り、ここは先生でもほとんど近寄らない場所。  無意識なのか癖なのか、俺は作り笑顔を浮かべる。   「あれ、どうしたの。ゆきなちゃん」  「え、っと、…さっき礼二君と廊下ですれ違って、まり君の居場所聞いちゃった」 「そうなんだ」  優樹菜ちゃんは肩まで伸ばした茶色の綺麗な髪の毛を揺らしながら、恐る恐る俺の横へ近付いた。  ふわりと甘い香水の香りが、鼻を掠める。  …女の子の香り。  なんだか、ずいぶん懐かしく感じるから不思議だ。  前まで普通だったことが懐かしいって感じるほど、俺は碧生しか見えてなかったんだ。  優樹菜ちゃんのことなんて、別れてから一回も思い出したことさえなかった。  …ほんと、ひどいよね。俺。 「…元気だった?まり君」 「…あー、うん。それなりにね」 「それなり、か」  ふふっと、可愛らしく優樹菜ちゃんは微笑む。 「…で、どうしたの?俺になんか用だったの」 「……ん、…私、…まり君に振られてから、何回かまり君の教室行ったんだよ」 「…」 「でも、まり君の周りいつも楽しそうで、なかなか声かけれなかったの」 「…そっか」 「…」

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