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第99話
「あのね、まり君っ」
「うん?」
「悩み事が有ってそれがすぐに解決しないような悩みだったら、一回その悩みを忘れちゃえばいいと思うの」
「…」
「だから、…その、私と遊ぼう!」
「……」
「いやっ、その…私で良ければ…なんだけど、……」
「…優樹菜ちゃん」
「えぇっと、その、疾しい気持ちが有るとかじゃなくて、ほんと、ほんとだよ!…でも、」
「…」
「まり君に余りそんな顔してほしくないなぁって、勝手に思っちゃってて、…心配しちゃって」
「…」
「振った相手…で、嫌じゃなければ…なんだけど」
一つ一つの台詞を吐き出すたびに、優樹菜ちゃんの顔が赤く染まって行く。
俺に向けられる目は今にも泣きそうなのに真剣で、逸らしたくなるほど。
…あぁ、なんか心が痛い。
相手の気持ちを探りながら、それでも頑張って誘ってみようとするココロ。
無意識に、否が応でも自分の恋心と被ってしまった。
俺が碧生に振られて、それでも碧生のことを想って碧生を誘ったとしたら、…絶対に怖くて、恥ずかしくて、逃げ出したくて仕方ないだろう。
今頃心臓は飛び出しそうなほど速まってて、どっちでもいいから早く答えを聞かせて欲しい…と懇願にも近い思いを抱いていることだろう。
辛いよね。こわいよね。
…ほんと、俺は他人の恋心を軽く見ていたんだ。
ごめん。
少しだけ、碧生への恋心から逃げ出したい気持ちもあった。
ほんの少しでも、恋心を封印する…封印できるかもしれないきっかけに繋がれば。
碧生にこれ以上、心配かけることもない。
きっと、苦しめることもない。
でも。
優樹菜ちゃんを利用することになるのかもしれない。
でも、俺だったら、碧生に利用されるなら本望だ。
「…ありがとう、優樹菜ちゃん」
「……うん」
「俺、好きな人いるけどそれでもいいかな」
「うんっ、もちろん!」
優樹菜ちゃんは耳まで真っ赤に染めて、満面の笑みを浮かべた。
「じゃあ、今日の放課後ね」と言われて、20秒迷ってから、「わかった」と誘いに承諾した。
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