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第100話
放課後。
いつも通り、碧生と一緒に教室を出て、音楽棟へ向かう。
いつ言おうか、いつ言おうかと機会を探してて、いつの間にか放課後になってしまった。
ものすごく言い辛い…と思ってしまうのは、約束して初めてその約束を反故するからなのかな。
もしかしたら、碧生が哀しい顔をしてしまうかも…。
胸がきゅぅっと締め付けられるように、苦しい。
「…毬也?」
柔らかな風に髪の毛をなびかせて、碧生が俺の顔を覗き込んだ。
不意に顔を寄せられたから、思わず身体ごと引いてしまった。
それにつられて、碧生もびくっと身体を揺らす。
俺たちの距離は、お互いの一歩分離れた。
「ごめん、ぼーっとしてた」
「…具合、悪いの」
「いや、元気だよ」
「……そう」
碧生は何か言いたそうに、ぱくぱくと口を上下に動かす。
なんとなくぶつけられる言葉を聞きたくなくて、一度唾を飲み込んでから、先に声を発した。
「…ね、碧生」
「うん」
「…俺、…今日先に帰る、ね」
「…え」
「ごめん、……その、」
元カノと遊ぶから。
それって、きっとやきもちなんてやいてもらえないレベルの台詞だ。
何と言い訳しようか言葉を探して碧生の顔を見つめていると、碧生は予想外の表情を出した。
微笑んでる。
哀しそうな顔も淋しそうな顔もしてくれない。
余り見ることの出来ない貴重な微笑みを、今この時に浮かべていた。
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