101 / 138

第101話

 なんで。  なんで、そんな顔するの。  じりりっと複雑に淋しくなってしまったのは、俺の方。  何処かで、『嫌だ』って言って欲しかったんだ。 「…好きな人と、帰るの」  風の音に混じって、碧生の小さな声が聞こえる。  そんな単語を出されて、敏感に動揺してしまった。  その碧生が言う『好きな人』が『碧生自身』ではないと思っていると、もう分かってしまったから淋しさが余計に増してしまう。  それでも俺は言い訳をしようとしているのだから、どう足掻いても碧生が好きなんだと実感した。 「違うよ、と…友達が一緒に帰ろうって言うから…その」 「そう」 「…碧生は、…今日部活終わるの遅いの」 「多分20時くらい」 「いつもより早めなんだね」 「うん」 「…そっか」  結局、余り話さないまま音楽棟に着いてしまい、俺は足を止めないまま「ばいばい」と碧生に告げた。  碧生の顔はいつもの無表情に戻っていたけれど、そんな俺を呼び止めることもせず、音楽棟の中へ消えて行った。  …一緒に居たいって言ってくれたくせに。  一緒に帰りたいって言ってくれたくせに。  瞼の裏にさっきの碧生の微笑みを思い浮かべるたび、下唇を噛みたくなる衝動に襲われる。    好きなひとを大切にして、と言った碧生。  碧生は、そんな他人目線で俺の幸せを願うんだ。  …。  もう、俺なんか要らないの…?  俺と一緒に帰らなくても、…百合亜ちゃんと連絡取り合えるからいいの。  なんで、…じゃあなんで「毬也と一緒に帰りたい」って言ったの。  なんて、自分勝手な思考なんだろう。  俺が約束破って予定入れたのに。  最低。ほんと、最悪。

ともだちにシェアしよう!