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第101話
なんで。
なんで、そんな顔するの。
じりりっと複雑に淋しくなってしまったのは、俺の方。
何処かで、『嫌だ』って言って欲しかったんだ。
「…好きな人と、帰るの」
風の音に混じって、碧生の小さな声が聞こえる。
そんな単語を出されて、敏感に動揺してしまった。
その碧生が言う『好きな人』が『碧生自身』ではないと思っていると、もう分かってしまったから淋しさが余計に増してしまう。
それでも俺は言い訳をしようとしているのだから、どう足掻いても碧生が好きなんだと実感した。
「違うよ、と…友達が一緒に帰ろうって言うから…その」
「そう」
「…碧生は、…今日部活終わるの遅いの」
「多分20時くらい」
「いつもより早めなんだね」
「うん」
「…そっか」
結局、余り話さないまま音楽棟に着いてしまい、俺は足を止めないまま「ばいばい」と碧生に告げた。
碧生の顔はいつもの無表情に戻っていたけれど、そんな俺を呼び止めることもせず、音楽棟の中へ消えて行った。
…一緒に居たいって言ってくれたくせに。
一緒に帰りたいって言ってくれたくせに。
瞼の裏にさっきの碧生の微笑みを思い浮かべるたび、下唇を噛みたくなる衝動に襲われる。
好きなひとを大切にして、と言った碧生。
碧生は、そんな他人目線で俺の幸せを願うんだ。
…。
もう、俺なんか要らないの…?
俺と一緒に帰らなくても、…百合亜ちゃんと連絡取り合えるからいいの。
なんで、…じゃあなんで「毬也と一緒に帰りたい」って言ったの。
なんて、自分勝手な思考なんだろう。
俺が約束破って予定入れたのに。
最低。ほんと、最悪。
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