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第104話
久しぶりに、夜更けの道路を一人で歩いた。
夜更けといっても、携帯電話の時計は、まだ23時と映し出しているのだけれど。
碧生を好きになって、生活のすべてが変わった。
夜中に家に帰って来ることはなくなったし、部屋で一人で居る淋しさをラインや電話で紛らわすこともなくなった。
碧生、今何してるのかな。
もうお風呂も上がって、パジャマ着て、宿題でもやってるのかな。
目を瞑ると、脳裏に浮かぶのは碧生の少し恥ずかしそうな笑顔ばかり。
…やっぱり、好きだって想う気持ちは消せない。
碧生の望む通りには、出来ない。
たとえ、碧生が百合亜ちゃんのことが好きで。
俺の気持ちが気付かれた途端、離れていってしまうとしても。
空にキラキラ浮かぶ星を眺めながら、家に到着する。
「…っ」
玄関のドアを開けた瞬間、息が止まった。
見たことのあるスニーカーが、揃えて並べられている。
これは、間違いなく碧生のもの。
碧生が、居る…?
まさか、俺を待って…。
リビングに居る家族に「ただいま」と声をかけることもなく、一目散に階段を駆け上がった。
自分の部屋の前で、ふぅ…と小さく息を吐き出す。
ドキドキと、遠くから徐々に近付くような緊張感が身体を包み込んだ。
「おかえり、まり」
ドアノブを掴んだと同時に、真横で可愛らしい女の人の声が聞こえた。
俺にとっては、女の人とかいう上品な存在じゃないのだけれど。
途端、緊張感が嫌な予感に変わって行く。
「…た、ただいま、百合亜ちゃん」
「遅かったのね、誰と何処に行ってたの」
「別に良いじゃん。…百合亜ちゃんには関係ない」
「ま、そーだけど」
「…なんの、用?」
「…」
俺の投げかけた疑問符に、百合亜ちゃんは顎を横へ動かして示した。
視線をその先へ動かすと、百合亜ちゃんの背中越しに大好きな人の姿。
ずぅっと、ずっと会いたいと思っていた碧生。
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