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第106話

 口を開くと全て吐き出してしまいそうで、恐い。  冷静とか理性なんて、二人の姿を目の当たりにした時に、どっか遠くへ飛んで行っていた。  碧生は、変わらずふるふると瞳を揺らして俺を見つめていた。 「…毬也、その人とまた付き…」 「碧生は、今日百合亜ちゃんと帰ったの」  言葉を遮るように、疑問符を投げつけた。  碧生から、その言葉はもう聞きたくない。  そんな俺の心を何も知らない碧生は、素直にこくりと頷く。 「…帰り道で百合亜に会って」 「……、たまたまよ」  百合亜ちゃんが、珍しく申し訳なさげに口を挟んだ。  俺は百合亜ちゃんの方へは一度も視線を動かさず、未だ碧生の肩を捉えたまま。 「そのまま、うちに来たんだ」 「うん」 「…そっか、それならいいじゃん」 「…え」 「俺が誰と帰ろうが、何時に帰ろうが、もういいじゃん」 「…」 「碧生は一人じゃないんでしょ。俺が一緒に帰らなくてもいいじゃん」 「…っ」  碧生は目を瞠り、動揺あらわに視線を泳がす。  そして、哀しそうに俯いた。  …この顔は、前に見た気がする。  遠い昔。本当は遠くない、たった5年前のこと。  碧生を傷付けた。  今なら、手に取るように分かる。  「ちょっと、あんたっ」と百合亜ちゃんが怒鳴った。  それでも、止められない。

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