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第113話

 ガバッとでかい身長を折り曲げ、頭を下げた。  そのまま、緊張のせいでかっこ悪く上がってしまった息を必死で整える。  視線の先に見えるのは、碧生の足。  優子さんが買って来たのであろう可愛らしいチェックの靴下が、シンプルな恰好から少しだけ浮いていた。 「…」  待ってみたけれど、碧生の声は聞こえない。  碧生は今、どんな顔をしてるんだろう。  碧生は今、何を考えてるんだろう。  …やっぱり、引いたのかな。  気持ち悪いとか…、思ってるのかな。  言わなきゃ、…良かったのかな。  でも、もう遅い。  言わないで、碧生を傷付け続けるより、絶対いい。  『毬也が嫌な場所には行かない』  『毬也が行かない所には行かない』    『俺も、毬也と一緒にいたい』  『毬也から離れたくない』  『もうあの子と話さない』   『でも、毬也から離れたくなかった。…他の誰かじゃなくて毬也と一緒に居たかった』  俺のために言ってくれた碧生の言葉たちが、優しく胸の中で響く。  引いていいよ、碧生。  嫌なら嫌だって、拒否ってくれていいんだよ、碧生。  全部伝えたから、もう碧生を振り回さないで優しく出来る。  何を言われても、多分受け止められる。  だから、はっきり言っていいよ。碧生。   そぉっと上半身を起こし、碧生の様子を窺うように目線を上げる。  碧生は未だ固まったまま、俺の腰あたりを見つめていた。 「…碧生?」

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