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第114話
ひらひらと目の前で手のひらを揺らす。
それでも碧生の眼球は動かず、その代わり呼吸に呼応するかのよう首筋から耳に向かって赤く染まって行った。
まるでアニメの一幕を見ているかのよう。
「碧生?大丈夫…?」
「……」
「あお、…」
かくっと、碧生の身体が足元から崩れて行く。
思わず抱き留めたけれど、碧生は力なきまま気を失った。
「…え、碧生…?」
「…」
…お、幼馴染に告白したら、倒れられてしまった。
目の前に起こっている現実にどう向き合えばいいのかわからず、碧生を抱えたまましばらく動けなかった。
「あんたって、本当に馬鹿よね」
洗面器にたっぷり入れたぬるま湯にタオルを浸しながら、呆れたように百合亜ちゃんが言った。
言い訳の言葉も言い返す言葉も思いつかず、仕方なく苦笑いを向ける。
百合亜ちゃんは絞ったタオルを碧生の額に乗せ、はぁ…と大きな溜め息を吐いた。
「あんたって、人類の中でもまれにみるほどの馬鹿だと思うわ」
「…言い過ぎだよ、百合亜ちゃん」
「何処が?あぁ、人類に対してってこと?それなら、そうかもね」
「…うっ、ひどいなぁ」
「そう?随分オブラートに包んで言ってあげたと思うけど」
「…ううっ」
百合亜ちゃんの悪態は少しだけ弱々しかったけど、俺に向ける表情も口調も普段通りに戻っていて、少しだけ安心した。
碧生が倒れちゃってから、結局俺はどうすることも出来ずに、碧生をお姫様だっこで抱え、百合亜ちゃんの部屋へ駆け込んだ。
百合亜ちゃんは泣いていたのか鼻まで真っ赤だったけど、そんなことにかまっている余裕は無い。
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