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第117話
「あんたの予想通り、碧生には好きな人がいるからって振られたわよ」
「…好きな人…。誰?百合亜ちゃん知ってるひと?」
「そんなの自分で聞きなさいよ。あんた、やっと告白出来たんでしょ?」
「……そうだよね、うん。ごめん。自分で聞く」
「…だから、碧生を傷付けたあんたがまた碧生に近付くことが心配で仕方なかった」
「…」
「すごく腹が立った。…自分勝手なやきもちだわ」
「……」
「ごめんね」
「…百合亜ちゃん」
百合亜ちゃんが切なそうな表情で、柔らかく微笑む。
こんな笑顔も、もちろん見たことない。
…恋って、不思議。
誰かに恋をするだけで、ひとはこんなにも変わるんだ。
純粋で、綺麗で、尊いもの。
すっごくすごく遠回りして、やっと気付けたような気がする。
「…ん」と、掠れた声が右斜め下で聞こえた。
碧生の瞼が持ち上げられて、ゆっくりと黒目が俺の姿を捉える。
…良かった、碧生。
「碧生っ、大丈夫?」
「……ま、…りや?…ん、…俺、どうして」
「具合は悪くない?痛いとことかない?」
「……う、ん、…」
慌てすぎている俺が、余程おかしかったのだろうか。
碧生はきょとんと不思議そうに首を傾げて、にこっと微笑んだ。
途端、どきっと心臓が跳ねて、そういえば告白しちゃったんだ…という何分か前の事実を思い出す。
あ、碧生…、倒れる前のことちゃんと覚えてるのかな。
記憶からぶっ飛んでたら、…もう一回言おう。
もうこうなったら、何回でも何十回でも言ってやる。
碧生が好き。
これだけは、譲れないから。
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