118 / 138

第118話

「じゃ、私は戻るね」 「あっ、うんっ。ありがとう百合亜ちゃん」  百合亜ちゃんが立ち上がると、碧生が小さな声で「…百合亜」と呼んだ。  振り返った百合亜ちゃんの顔は、いつも通りの百合亜ちゃん。  「なに?」と普段のように少し威圧的な口調で返す。 「…ありがとう」 「……うん」  にっこり微笑み合って、百合亜ちゃんは部屋から出て行った。  …百合亜ちゃん、振られてからずぅっと好きだったのかな。  碧生も百合亜ちゃんの気持ちを知ったうえで、今までと変わらず接してたんだ。  …逃げて来た俺とは、全然違う。  俺も、しっかり頑張らなきゃ。   再び訪れた、二人きりの空間。  ドアの方を向いていた碧生の視線が、ゆっくりと俺の方へ戻って来る。  ほんの少し潤んだ瞳でじぃっと見つめられるから、力いっぱい抱き締めたくなった。  …ダメダメ、俺はちゃんと改めて気持ちを伝えるんだ。 「碧生」 「…うん」 「身体、大丈夫?気持ち悪いとかない?」 「うん。…毬也は優しい」 「そっ、そりゃそうだよ…、碧生が好きなんだもん」  不思議なことに、一回口に出した気持ちを再び声にして伝えるのは簡単だった。  本当に、何回でも言えそう。…言いたい。  好き、って言葉だけじゃ全然足りないよ。  碧生は目を揺らし、俺の胸元あたりへ視線を落とす。  こくっと唾を飲み込む小さな小さな音が、聴こえた気がした。

ともだちにシェアしよう!