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第125話
碧生は言われるがまま、瞼を閉じる。
長い睫毛が、眼鏡のレンズにかすかに触れていた。
…ほんと、かわいい。碧生。
大切にしたい。
心から、大事にしたい。
ううん、したいんじゃなくて、しよう。
ぎゅぅっと固く握り締められた碧生の右手を、そぉっと開くように左手の指を絡める。
空いている右手で碧生の頭を何度も撫でて、心の中で唱えた。
碧生、大丈夫だよ。大丈夫。
緊張しないでね。
碧生の嫌がる事だけは、絶対にしないから。
「碧生…」
頬へ移動させ、指先で優しくなぞる。
唇に触れると、碧生の身体はびくっと大きく揺れた。
おそるおそる眼鏡を外し、顔を寄せる。
ドキドキドキドキ。
心臓は苦しいほど速いけど、やけに冷静だった。
経験から来る余裕なのか、碧生の余裕の無さのおかげなのか。
どちらにせよ、これまで色々な人と付き合ってきたことが無駄なんかじゃなかった。
今そう思えて、本当に良かった。
「…っ」
ぷにっと柔らかい唇が、くっ付いた。
碧生の手が、かまえるかのようきゅっと力が込められる。
ずぅっと、ずっとしたいと思っていた碧生とのキス。
柔らかくて、温かくて、ほんのり震えた碧生の唇。
何度、夜中にひとりで想像したことだろう。
何度、一緒に居る時に抗えない欲求に襲われて辛い思いをしたことだろう。
想像なんかと、全然違う。
本当の碧生が目の前に居て、俺に温もりをくれている。
ただくっ付けているだけなのに、すごく幸せ。
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