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第136話
「ね、碧生。ちょっといい?」
「なに」
「付いてきて」
家まであと一ブロックといったところで、街灯の少ない方へ手を引く。
…この辺に、公園が有ったよね。
すっごい小さな頃、碧生とふたりで遊んだ記憶がある。
確か、明かりもないような小さな公園。
家まで我慢すべきなのは分かってるけど、もうこんな時間だから部屋においでとも言えない。
明日までお預けなんて、出来るはずもない。
今、したい。
碧生が可愛すぎるのが、悪いんだよ。
碧生は事態を余り飲み込めていないのか、不思議そうな顔で黙って付いてきてくれた。
焦り過ぎて俺の足が速いのか、少しだけ小走り気味だ。
真っ暗な公園。もちろん誰もいないし、住宅街だから道路を歩く人影もない。
10年ぶりにそこへ足を踏み入れた瞬間、碧生の細い身体を抱き締める。
碧生は、「え」と驚きの声を上げた。
「碧生、あったかいね」
「まりや、…」
「ずぅーっと碧生を抱き締めたくて仕方なかった」
「……」
「ここなら誰にも見られないから、いいでしょ」
「…うん」
布越しに感じる碧生の鼓動がドキドキ速まって来るのがわかる。
俺の心臓だってびっくりするほど速いから、振動が重なり合って心地いい。
ぎゅぅっと力を込めてから、片手を碧生の頬へ移した。
赤く染まりっぱなしの熱い頬。
今きっと、碧生の身体の中で一番熱い箇所だろう。
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