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Part.3
紗里の言葉に甘えて、客間で俺たち二人がくつろいでいると、そこへ昭がやってきて俺の横にちょこんと座っている菜々瀬に声をかけてきた。
「…菜々瀬。結真お兄ちゃんに会えて嬉しい?」
「…うん!とーっても嬉しい。ななせ、お兄ちゃん達と一緒に遊びたい!」
「…菜々瀬は一緒に何をして遊びたいの?」
「…ゲーム!イカちゃん!!」
「…イカちゃん…?何だそれ?」
「ああ、携帯ゲームの事だよ。…前に紗里が遊んでいるのを一緒に見てて、興味を持ったみたいでな。菜々瀬じゃまだまだ操作もおぼつかないけど、自分なりに一生懸命やってるらしいよ」
「…3歳でゲームとは…。菜々瀬は本当に頭が良いんだな」
「まあでも…あまりハマられても困るから、一応制限はさせてるよ」
「…へえ。俺もゲームは昔よくやってたけど、最近のはもう何が何だか全然分からないな。…そういえば…そろそろ此処の夏祭りも近いんじゃない?」
「うん、今度の日曜日かな。…けどな。俺は今、法事とかその他の準備に追われてて、なかなか菜々瀬の面倒を見てあげられないんだよ。紗里もだいぶ身重になって来てるから、あまり無理もさせられないしな…。もし良かったら、兄さんが菜々瀬と一緒に行ってあげてよ」
「おお、たまにはいいね。…芝崎さんも行きますか?」
「お祭りですか?…良いですね」
「…今回も抽選券とかある?」
「ああ。商品引換のクーポン券も貰ってあるから、それ全部引き換えてきてくれると助かる」
「……分かった。今年は何が来るんだろうね」
「…と言っても、抽選に当たる試しなんてほとんど無いけどな。…でもこれが、菜々瀬が祭りに行く時の楽しみの一つでもあるから頼むよ」
「ああ。…菜々瀬。今度のお祭りはお兄ちゃん達と一緒に行こう?」
「えっほんと!?やったー!」
俺がそう言うと、横に座っていた菜々瀬は突然立ち上がって俺の懐に飛び込んできた。
子供は天真爛漫。…特に菜々瀬ほどの年齢の子供はいつ何をしてくるか分からないので、俺は菜々瀬の行動一つ一つに少しヒヤヒヤとしていた。…それも全てを芝崎の前でやられてしまうから、俺の心の奥はどうにも休まらない。…そうなのだ。…芝崎は現在の俺の恋人、なのだ。
やたらと俺にじゃれついてくる菜々瀬の姿を隣で見ていて、当の芝崎がどう思っているのか…。普段からあまり表情を変える事のない芝崎だからこそ、そこに隠された本当の感情を読み取る事は…ある意味不可能に近い。
それは、その日の夜の二人の会話の中にも言えることで、この実家に戻ってきてから、本当に久しぶりに自分の部屋で寝泊まりをする事になった俺たち二人の間には、少しだけ不穏な空気が漂っていた。
「……ねえ、護さん」
「何ですか?…眠れない?」
「……護さんは……俺と一緒に来て良かったって、思ってる?」
「…?…どういう意味ですか?」
「いや、あのさ…。戻って来てから菜々瀬がずっと俺の傍にくっついてるでしょ。…俺、あんたの恋人なのに、それらしい事が一つも出来てないな…って」
「それは仕方ありませんよ。だって此処は君の実家で、僕はその帰省に付いてきただけの…おまけみたいなものですよ?…他人の僕が早々出しゃばっていい筈がない」
「…だからって、このまま俺が菜々瀬ばっかり構ってたら悔しくならないのかよ!?」
「…それはね。…無いと言えば嘘になります。…だけど結局、子供には勝てないでしょう?…子供は天真爛漫です。…だがそれ故に、残酷な存在にもなり得る…。大人達の都合なぞいざ知らず、彼らはいつも全力でぶつかってくる。…けどそれが、『子供』という存在が持つ最大の魅力なんですから…僕は受け入れますよ」
「……そうか。ごめん…」
俺はその時思い出した。…芝崎が航太の『父親』であるという事を。
俺の抱える不安なんて、芝崎にとっては大した問題ではなかったのだ。
ならどうして俺は、そんな事を思ってしまったのだろう。
「…でも…それほどまでに僕の事を心配してくれていたんですね、結真君は。…嬉しいです」
「…どうしてだろ…。…こんな事、今まで全然思わなかったのに……実家だからかな…」
「…そうかも知れませんね。…君はこの家であまりいい体験をしていない。…もしかしたら、そんな心の奥に長く閉じ込められていた感情のようなものが……今の君を不安にさせてしまっているのかも知れない…。」
「…護……。」
「…結真君。…少しだけ…許してもらえますか?」
「…え、何……っ」
俺が逃げる間もなく、芝崎の唇が俺の唇を奪う。
最初はゆっくりと…だが、そのまま深く俺の口腔を探るように、俺の中で芝崎の舌が蠢く。
それはかなり本気モードの状態で、俺は間もなく全ての抵抗力を削ぎ取られてしまった。
「…っ…はぁ……はぁ……っ…。」
「…結真君。……君を抱いてもいいですか?…今、此処で」
「…っ…何、言って……!?」
「……すみません…。でも……僕は今すぐ君が欲しい。……結真、君の答えは?」
「……分かった。……俺の中に来て。…護……。」
俺の名前を呼ぶ芝崎の声は、間違いなく俺を欲していた。
それはすぐに分かった。だから俺も、これ以上の抵抗はしなかった。
「……結真……。」
こんな風に、余裕のない掠れた声で俺の名前を呼ぶ芝崎が……とても愛おしい。
俺は自然と芝崎の身体を引き寄せて、今にもはち切れそうな彼の下肢に触れる。
――その場所は、俺の手の中でゆっくりと反応していた。
「……馬鹿だな。…こんなになるまで、どうして黙ってたんだよ…」
「…遠慮してたんですよ、これでも…。此処は君の実家ですからね。……でも、もう許してくれますよね?」
「許すも何も、これじゃ辛いのあんたの方でしょ、護さん。……けど、俺ももうこんなんだから一緒です。……ね?」
そう言って、俺は引き寄せた芝崎の身体に自分の足を絡ませながら、そのまま軽く腰を持ち上げてみる。そうする事で、同じように膨らみかけている俺自身の感触を彼に伝える事が出来るのだ。
「……っは、ぅ……っ!」
「…結真君…。…感じる……?」
思わず漏れ出た俺の声に反応した芝崎の下肢がドクリと脈を打って、あてがわれたその身体に対して更に大きさを増してきた。
「……う……っ…。」
「……護、本当に辛そうだな……。…これ、一回抜いた方がいい…?」
「…いえ、出来れば……君の中で……。……いいですか?」
「……いいですよ。……来てください」
俺がそう答えると、芝崎は俺の下腿の着衣をするりと外し、すっかり準備の整った自分自身の着衣もずらして露にする。
「結真君。…少しだけ動かしますね…。」
「……はい」
芝崎の手が俺のものに触れ、そのままやんわりと上下に動かし始めると、俺の頭の先から足に至るまで、全身を駆け巡る快感が一気に押し寄せてきた。
「……あ、ああああっ!」
思わず叫びそうになったその声を、俺は急いで塞いで何とか堪える。
自分の部屋とは言え、他に住人が居る場所で声を上げるわけにはいかないから、俺は必死に我慢して芝崎の手の動きに翻弄されそうになる自分を抑制する。
「……っ…ん……んん…っ……。」
「……もう少し……。もう少しだけ……我慢してください」
声を出す事は出来ないので、俺は首を縦に振って芝崎の声に応える。
だがそれでも身体の奥から湧き上がってくる疼きには勝てず、俺は間もなく全てを解放してしまった。
「……ん、んんーーーっ!!」
「……結真……君は悪い子だ…。僕より先に達ってしまうなんて…」
「……あ……ごめん、なさい……。」
「……でも、これで入りやすくなったかな……」
「…え、指……!?……ダメ…待って、もう少しだけ……!!」
そんな俺の言葉などいざ知らず、芝崎の指は俺の後ろを否応なしに探っていく。
一度達してしまったそこは、そんな指の動きすらも滑らかに飲み込んでいって、体の奥に眠る熱さと快感を再び呼び覚ます。
「……や…っ……やだ……嫌……もう…そんなに俺の中を…掻き回さないで……!」
「…おかしくなりそう……?」
「…護…。……護…早く…っ!」
「……僕も…。…結真……!」
その瞬間、芝崎は俺の中を押し広げながら一気に突き上げた。
指とは違うその感触。…身体の全てから魂そのものを奪い取られるような、その大きな力をゆっくりと味わう間もなく、俺の意識は昏迷していく。
「……ああああっ!」
「…結真、達くよ……っ!」
その言葉が芝崎から発せられた途端に、俺の中には彼の性が放出された。
そして時を違えぬまま、俺自身も再び絶頂を迎えた。
――それから……俺たちは、二人同時にベッドの上に崩れ落ちた。
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