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第3話

-こひぞつもりて-  会ってみて分かった。これがまだどういう形のものなのか正直自信はないが、少なくとも流れるままに身体を重ねて終わらせてきた奴等と違う、後を引く感じが柿本さんにはあった。あの女の父親を名乗る者に会ったからか。あの女に覚える焦燥感は確かにあったが俺の無意識(ほんのう)はあの男を敵人として認識していなかった。あの女は俺とは違って親譲りだったわけだ。あの女とは違うという感じは意識的な喜びを持たせはしたが同時に孤独感もあった。  柿本さんは俺と同類を2人も家族に抱えているせいか、甘えるのが上手かった。 「あ、…いけ…ないよ、未世ちゃんが…」 「娘さんなら俺の弟とよろしくやっています」  煽っているのか力のこもっていない手が俺の胸を突っ撥ねる。その手を取って彼の両端に縫い止める。娘のことを出すと柿本さんはびっくりしたみたいに急激に俺を締める。俺は息を詰めて腰を押し込んでしまった。 「あ、んッぁ、」  感じただけ柿本さんは返してくれる。濡れた唇を塞ぐ。快感を示す声がくぐもった。舌が絡まって、頭がぼうっとした。柿本さんのキスは甘く、やめられない。蕩ける感覚が惜しくなって離したくなかった。爆発しそうな欲望が次から次へと溢れかえる。番いはこの人かも知れない、と薄っすらそんな考えが浮かんで、それも結局この人を果てさせたい、この人で果てたいという欲求に掻き消える。 「イ、く…そこばっか、突いた、ら…あっ」 「ッぅ、」  一心不乱に柿本さんの感じる箇所を突いて、狭まる収縮の間隔に視界が明滅する。電撃が下半身を駆け巡る。俺から逃げるみたいに引き攣って暴れる身体を抱く。中の俺の脈に応えているみたいだった。 「んぁっあ、す、ご…い…」  無防備な耳朶が美味そうな果実に見えて噛み付かずにはいられなかった。湿気を帯びた音を立て、唇で耳朶を食む。哺乳に必死な赤ん坊みたいに滑稽に見えたことだろうが俺は柿本さんを口に入れたくて躍起になっていた。 「ぁ…あ…」 「素敵です」  正気に戻りつつある柿本さんにもう一度口付ける。触れるだけだった。柔らかい。なんだかもったいない気がしたが、深追いする前にやんわりと拒否される。 「未世ちゃんを迎えに行かなきゃ…」  俺の下から出ようとする柿本さんを押さえ込む。 「俺の弟と一緒に居るから大丈夫です」  何が大丈夫なのか俺にも分からなかった。むしろ頭の悪く鈍臭い弟は不安要素でしかない。 「未世ちゃんにはまだ早いよ…」  柿本さんは俺の父と比べても若い。苦労したのかも知れない。 「それでもちゃんと処理したほうがいいです」  まだやれそうな気がしたが抜いたところから精が滴る。落ちそうなところを掬う。赤くなった結合部が蠢く。さらに奥から白濁が流れ出る。自分で思っていたよりも濃く量が多い。 「自分でやれるか、ら…ッ!」 「出した俺がやりますよ。ティッシュもらいますね」  今度からスキンを携帯しようという気になった。粗方後始末を終えると柿本さんは本当に娘を探しに行くらしかった。柿本さんは待っていても構わないようなことを言ったが他人の家で1人留守番というわけにもいかなかった。 「約束破ったから、きっと怒ってるんだ…」  柿本さんは(しお)らしかった。俯いて、一歩が踏み出せないようだ。根掘り葉掘り聞くわけにもいかず柿本さんの肩を抱く。掛ける言葉がなかった。肌を合わせた相手だからか布越しても皮膚が吸い付き合うような感じがある。 「柿本さん」 「もう未世ちゃんを裏切れないよ…」  俺の腕の中からすり抜けようとする。咄嗟に逃がすことを許さなかった。 「裏切る?」  柿本さんは何も言わなかった。 「君はボクのことが…その、…好き、なの?」  躊躇いがちに訊ねられ、俺はここで答えを出さなければならない気がしたが好きか否かが結局のところ分からなかった。その場凌ぎに発した一言だったがそこに誠意や真実性を求められると俺は分からなくなった。ただ触れたくないだとか、話したくないだとかあの女に感じるものは柿本さんには当て嵌らなかったし、他の奴等にはなかった触れたいとか話したいという興味に似たものは確かにあった。 「好きですよ」  柿本さんは困っているみたいだった。俺から顔を背け、遠いところを見ていた。あの女とはやっぱり似ていない。血が繋がっていないのかも知れない。継父(ままちち)など珍しくないことだ。 「ボクは未世ちゃんのパパで…君の気持ちには、応えられない…もうシてしまった後で悪いけど…」  嫌だ、というのが最初だった。懐かしい感覚で、弟が俺のおもちゃを欲しがって、嫌がったのに母さんに持って行かれた時に感じたものと近かった。 「いいえ。悪いだなんて思っていません」  家の前の道で途方に暮れている柿本さんに寄り添っているうちにあの女と弟は帰ってきた。繋がれた手が目に留まって俺は勝利感に震えそうだったが表にするわけにはいかなかった。あの女は俺との競争を放棄したに等しい。 「未世ちゃん!」  柿本さんは声を荒げる。 「わたしはナルとよろしくやるから、パパは――とよろしくやったら」  俺は顎でしゃくられる。弟は間の抜けた面で俺をみた。機嫌を窺うような感じが癪に触る。 「何言ってるんだ!未世ちゃんにはまだ早いよ…!」 「若い欲を持て余して?パパみたいに…子供の同級生にも手、出しちゃうから?でもわたしパパみたいにあの人にもこの人にもって…もうなりたくない。ナル1人に決める…大人になるまではセーフティするから安心して」  外でする話でもない。後々の近所付き合いを考えれば注意しておくのが得策かも知れない。肩に触れた柿本さんは呆気に取られて黙っていた。弟は気拙そうに柿本さんを見てから俺と目が合った。よくやったと思う。何故弟が愚鈍に産まれたのか、その答えは簡単だった。横の女を引き摺り下ろすためだ。 「君は本当にいいのかい?何もそんな…まだ若いから判断がついていないんだよ…この身体で子供を産むのはリスクが大き過ぎる。君は…お兄さんからも何か言ってあげてくれ」  柿本さんが何の頓着もせず弟に触れたのが気に入らなかった。だがその直後に俺に意識を向けたからもう些細なことだった。 「おめでたいことじゃないですか」  俺の慎ましやかな拍手が近所に響く。 -ふりさけみれば-  重之から泣きつきの電話が来たのは仕事を終えて間もなくだった。未世がパートナーを見つけたというから僕はびっくりした。相手を見たいという気持ちが強くなったのは親として当然の興味で、いや、パートナーを選んだはいいけれど子と離れてしまった僕の興味で、安心を求めてもいた。失敗したから。今すぐにだって引き取りたい。理由が理由だけに環境上良くないことは知っていた。重之に人を愛する能はあれど、持て余した欲に抗うだけの気丈さがないことも。偶然が重なって勘違いして数を重ねて付き合って、そのうち重之は未世を孕んだ。偶々、競争に勝ってしまった。未世が生まれて僕は重之に対する見方も変わった。切った貼ったでどうこうできる相手ではなくなった。  思い出と反省に浸りながら重之の元を訪れる。インターフォンに構わずそのままこの家の人みたいに入れたなら。でも僕が決めたこと。自分で決めたことだって割り切れないことはいっぱいあるのにね。 「いらっしゃい」  少し気拙そうに重之が出てくる。出て行った家の匂いが僕を迎える。リビングには見覚えのある男の子がいた。僕を睨んでいるのか、もともと目付きが悪いのか分からないけれど彼に恨みを持たれるようなことをした覚えはないから後者かな。これから重之と話すことは未世の友達の前でするようなものではないから僕は落ち着かなかった。 「こんばんは。この前ぶりですね」  重之は台所に行ってしまったし、僕は目付きの悪い美少年くんの対面に座った。ソファに座る男の子は僕を一瞥してそこから見える重之の背中を見つめた。高校生だよ。僕はその視線の意味を知ってしまって口をぽかんと開けた。いや、未世もなんだけど。僕は胃の辺りが突然重苦しくなった。 「重之」  僕は台所の重之の傍に寄った。 「どなた?」  小声で訊ねる。重之は素早く僕の反対方向に目を逸らした。それがもうほぼ答えで、僕は顔面にワンパンチ喰らった感じがした。 「伊集院くん。双子の弟が、件の」  振り向いてしまった。ぎらぎらした敵意に射抜かれる。僕は彼の隣にもう1人いたことを思い出して、けれどあまり印象に残っていなかった。 「未世の友達じゃないか…」  口にしてから僕にはもうそうするだけの立場にないことを知る。足音が近付く。 「重之さん、何か手伝いましょうか」  彼は重之を腕で囲い、僕から遠ざけるみたいだった。重之は焦りながら首を振る。僕が決めたことだから、それでも悔しかった。彼がどれほど重之といるのか分からないけれど、それでも永久的に重之といられるような錯覚があった。 「…お邪魔したね。日を改めるよ。未世に余所行きのワンピースでも買ってあげて」  リビングに幾らか紙幣を置いて僕は玄関を飛び出す。2階の明かりがカーテンの奥に見えた。  未世を引き取ろうか?惨めになった時よくそう思う。重之にパートナーが現れたなら。でももう遅い。未世はここの土地の人と、ここに根付く。じっと見ていると2階の窓が開いた。未世が顔を出す。その隣から少し明るい髪色の男の子が顔を出す。絵本みたいな平和な世界って感じがした。彼の産む子は未世に似るのか、それとも僕の瘡蓋になるのか。会うのは最後にするつもりで僕はじっと僕を見つめる娘を見上げていた。確か明るい子だった。未世を悲しませなければそれでいい。未世に笑いかけていて。それだけであの子が僕の癌であろうが、未世のパートナーだから、その一点で君のことも愛するよ。 -ながめせしまに-  お父さんが頭を下げて帰っていく。呼びたかったけど、お父さんはお父さんの友達ってことになっているから、わたしはお父さんの嘘を守りたかった。 「呼び止めなくていいの…?」  ナルは無邪気だと思う。ナルには二親が生まれた時から今まで一緒にいるんだろうな。家に帰ったら。でもわたしの求めるものは、お父さんとパパが求めたものと反対なら、わたしも同じでなかったら不孝な気がする。 「ミヨちゃん」  黙ったわたしの顔を覗き込むナルの唇を塞いでベッドに押し倒す。ナルの唇は柔らかて甘かった。特別な感じがしてキスはしたことがなかった。今まで。ナルにも。腹に小さな膨らみが当たる。シーツの擦れる音がして手を握られた。分かりやすい指の熱が絡む。空いた手でナルの前を摩ると彼はわたしの背を抱いた。布越しに立てられる爪は嫌いじゃなかった。 「ぁ、んぁ…」  ぴくん、と指が背をくすぐる。唇から漏れるナルの声が誰よりも可愛く思えたのはこの人と決めたからかも知れない。前を擦るたび舌が勢いを失い、代わりにわたしがナルの口腔を荒らす。 「は、ぁ…ぅん、」  上と下から水気を帯びた音が響く。まだ記憶に新しいお父さんの後ろ姿を思考の彼方に放り投げようと必死で、その隙間をナルなら埋めてくれるに違いなかった。 「ミ、ヨちゃ…ミヨちゃぁ、も、止めて…止め、てぇ、あっんンッ」  背中を大きく撫で摩り制止を促され、従った。口を離すと糸が切れた。ナルは水飴みたいに口の端を汚すそれを舐めとる。 「終わりでいいの?」  しまえないほどに張り詰めている淡い色の陰茎から手を離す。先端から溢れる体液を塗り込んだため全体的に光っていた。 「お腹の奥も、気持ち良くなりたい…」  とろんとした目にわたしが映る。素直なナルが素直にわたしを求める。普通のこと。いつものこと。 「ミヨちゃ…オレが気持ちよくする…から」  下を全部脱いでぷらぷら前を揺らす光景はおかしかった。わたしの肩を押さえて、脚を跨ぐ。ナルほど調子付いてはないソレにスキンを被せるといつもの場所に押し当て、腰が落ちていった。 「あっ、あ、あひ、っぅ、」  上体を支える膝ががくがく震えていた。ろくに触ってもいない括約筋が日常的な慣れを頼りにわたしを呑む。それでもつらそうで、硬かった。わたしも痛いくらいで、でもナルを雑に扱えず腿を撫で摩る。涙ぐんだ目がぼうっとわたしを見つめて、目が合うと彼はやんわり微笑んで一粒水滴が落ちてきた。 「無理しないで」  歯を食い縛ってナルは頷いたけど聞いちゃいないみたい。両目を固く閉じるものだからぼろぼろと涙が滴った。 「ミヨちゃ、に選ばれ…て、嬉し…」  腰が止まってそこで何度か収縮する。 「うん」 「好き…、ミヨちゃぁ、んっあ、」 「ありがとう」  まだ半分も入ってない。どうしてこんな真似をするのだろう。わたしに流されていれば痛い思いしなくて済むのに。 「ナル」 「嬉し、い…ミヨちゃん、ミヨちゃ、」  臀部に両手を回し、両端に開いてみる。そういう単純な構造じゃないみたいだった。背を逸らして胸が突き出る。手を伸ばして上を向いた突起を刺激した。ぶるりとさらに一瞬仰け反る身体的変化がわたしのそこをさらに大きくする。 「んぁ、ミヨちゃ…ん、おっき、…気持ちぃ…?」  ナルのなかではもう半分以上挿れたつもりみたいだけど、まだ先端と少しが収まったくらいで、一度弱く突き上げる。 「待って、待、て…ちゃんとやる、んぁっ、んっん、」  ナルの引き締まった腰を抱き寄せ、滑らかな腹に額を押し付けてわたしはナルを穿った。反動も感じさせる余裕を与えず抽送をはじめる。 「あっ、そん、なッ、深ンあ、あっ!」 「ナル」  きゃんきゃん鳴くナルを放せなくなった。パパみたいにはならない。ナルに決めた。もう他の人のことは断る。決めた。腕の中のを上下する肉感に夢中になる。 「ミヨちゃ、ミヨちゃ、あんっぁ、ァ、好き、好き、あっ」  ベッドが軋んだ。ナルの声も遠くなったり近付いたりして、わたしはナル腹に噛み付く。それも快感になってしまうらしく、解れたそこがわたしを引き絞る。 「ナル」  わたしも甘ったれた声を出す。逃げを打つ腰を押さえ、ナルの腹に歯を立てる。 「深、い…激し、…ぁ、んぁ、」 「ナル」 「あ、あ、ミヨちゃ、ミヨちゃ、イっちゃう、イっちゃう、ぅんんん…っ」  怖がるみたいにだめ、気持ちいいを繰り返してナルは果てた。近くにあったナルの茎が精液を飛ばしてわたしの顔にかかった。スキンの中にわたしも果てる。まだ責任を果たせないから。ナルは可愛がってくれるかな。パパみたいに。ナルは置いていかないかな、お父さんみたいに。ぼんやりしてわたしを凝視しているナルは泣いてるみたいだった。鬱陶しく感じないのは決めた相手だからかも知れない。 「汚して、ごめ…ん」  ナルに顔を寄せる。何も言わなくても青臭い精液を舐めとっていった。少しざらついた質感がくすぐったい。 「ナル」  唇が触れた。少し苦い味が伝わる。パートナーだ。わたしが決めた相手。そう思うと上級生に囲まれていじめられ、襲われかけていたナルをこれからも守っていく気になる。細められた目がわたしに好意を告げてきゃらきゃら笑う。 「諦めなくてよかった」  嘘臭い言葉は鵜呑みにするだけ首を絞める。パパだって、もうしない、もうやめる、約束を守るって言ってた。言ってた?言ってた。小さな頃、確かに。壁の奥で聞こえた諍いをわたしは自分が思っているよりよく覚えていた。別に激しい喧嘩じゃない。お父さんの優しい声は何も怒っちゃいなかった。でもパパは謝って許しを乞う。わたしは扉から漏れる光を布団の上から見ていた。 「人気者のミヨちゃんが、オレみたいな…どうしようもないヤツ選んでくれて、すごく…嬉しいんだ」  ナルはわたしに触れようとしてやめてしまった。だからわたしが掴む。緩んだ顔に意識が止まる。ナルにする。ナルだけに。他の人には手を出さない。パパみたいにはならないし、ナルをお父さんみたいに悲しませたくない。違う、ナルのことなんてきっと何ひとつ考えちゃいない。わたしがパパみたいになりたくないだけ。 「ミ、ヨちゃ…ん、痛い…」  握り潰すほど強くナルの手を掴んでいた。 「ごめん」  パパとお父さんの番いごっこをわたしもやりたいだけ。 「でも、幸せ」  にこにこ笑う。わたしの内心なんて知らないで。可哀想な人。やっぱり無理、なんて今更言えなかった。ただナルのことを想って。ただわたしはわたしのためだけに言えなかった。 -こひぞつもりて-  台所でするセックスは堪らなかった。元の旦那を追おうとしていた重之さんを引き止めて、縺れ込んだ。シンクに手をついた重之さんを俺は貫く。 「あ、ぁあ、あっ」  俺を締め付けてキッチンには似合わない肌のぶつかる音がする。 「あ、やぁ、やっ、そこ、んぁ…!」  角度を変えて重之さんの奥を抉る。 「重之さん…ッ!」  振り向かせて口付ける。チョコレートが溶けるみたいだった。下唇を食んで離れる。 「(はる)く、…ん」  切ない声で呼ばれる。どうして娘もいるような人に俺は惹かれているんだろう。呆れた。馬鹿な弟はあの女と付き合うことを両親に話していた。呑気な二親は口煩いことは言わなかった。ただ生活に支障を来すようなことはするなという話だった。父は大学時代に俺たちを産んで周りからうるさく言われたらしかった。それから腫れ物に触るとみたいで、侮辱に等しい誤解ではあったが弟と仲良くしろという暗黙の圧から解放され、弟が身を置いていた団欒に落ち着いた。いずれ時間が解決する。演じるのは簡単だ。 「陽く…ん、もう…っ」 「だめですよ。生です。このままイっちゃったら俺も出そうです。赤ちゃんデキちゃいますよ」  耳を噛む。彼は言葉にも感じるらしく俺に絡み付いて奥へ奥へ引き込む。 「赤、ちゃ…ァ、あっんぁっ」 「重之さ、そんな締め…っぅ、」  唇を噛んで耐える。強い収縮に快い目眩がした。荒々しい呼吸が凪いでいく。 「あ…ぁ、ごめん、ひとりで…」 「気にしないでください」  さらさらの髪を撫で、そっとキスを落とす。ひくりと俺を絞める。 「中に出しちゃ、だめだよ…危険日だから…」  俺は眉を上げた。家族のビジョンが初めて浮かぶ。弱々しい口調は言葉と裏腹に求めているようだった。収縮が治まり、俺はまた腰を動かす。 「あ…あ、あ、あ、」  尻たぶを揉んでゆっくり腰を引いては打ち付けた。内部が俺を押し留めたり、押し出そうとする。 「まだ、待っ…」 「待てませんよ…もう俺の、すぐにでも…」  強く密着し短いストロークで突くと重之さんはまた果てそうになっていた。後ろでは感じているようだが触っていないためあまり反応を示していない前が揺れる。 「あっん、あっあっ」  一度休憩を挟んだ俺のはすぐさま固さを取り戻し重之さんの内部にマーキングしょうと躍起になっている。下の代わりに膨らんだ2つの実を摘んで捻る。きゅんきゅんと俺を締めぬるついた愛液が俺の砲身の滑りを良くする。 「気持ちいいですか」  甘い声を上げながら重之さんは頷いた。首にも力が入らないみたいだった。 「俺の陰茎(ココ)、玩具みたいに扱っていいですよ。俺の気持ちは、本気ですが」  これからは無機物で自分を慰めなくてもいい。目に留まった人を誘い込む必要もない。俺は前の旦那さんみたいに淫欲を抑えられない重之さんに愛想を尽かしたりなんてしない。 「ま、た…またイ、」 「いいですよ」  耳を甘噛みする。 「(はる)く、も…イっ…て?」  重之さんはきつくした。ラテックスも隔てていない。快感で頭ぶっ飛んでいるのかも知れない。俺は別にいい。学業生活をやめて、家庭を持っても。どこで躓いてもやっていける、そういう世の中だろう。 「イイの?」  重之さんを選んで。このまま孕ませて。俺に似る?重之さんに似る?顔立ちは、顔立ちに限って、重之さんに似てほしい。かといって始終いがみ合うことばかり続ける生活も疲れるもので。重之さんが優れた個体なのかどうか、俺のそういう嗅覚では分からなかった。 「い、い…」  痣が残るんじゃないかと思うほど強く腰を抱いてラストスパートをかける。俺を果てさせるうねりにあっという間に上り詰めた。 「っ、く、」  悦楽が迸る。最後まで出し切ることに没頭して前後に揺れた。内壁に塗り込む。教育を受けようが、偉そうなことを言おうが、結局は動物的な勘に誘導されている。半分ほど勃っている重之さんのそこが射精した。 -ふりさけみれば-  テレビの結婚式特集が何の関心も抱かないものではなくなってつい消してしまう。訳の分からない悔しさがふと胸に残っている。重之の腹に未世が宿ったと知った時、僕は結婚式のことを考えた。気が早かったかも知れないけれど、僕等はそういうのなかったから。親の立場としても一個人としても当事者としての初めての結婚式。挙げたいとは何度か思った。けれどいつかのための貯金が必要だと思って、そしていつかいつかを繰り返して別れてしまった。未世に並ぶのは重之とあの子供だなんて。けれどそれも未世と離れるということ。未世は好きな人と一緒にいるのがいい。明るくて賑やかな子と。考え方さえ少しズレたなら未世は元気に育って、好きな人と一緒に居られている。ずっと続かないものかも知れないのは僕自身でも実証済みだけれど、人生のうちに輝きがあることは落ち込んだ時の励みに変えてゆけるんじゃないかと思う。どうか降りかかる不幸には腐らないでほしいし、最大で多数の幸福が訪れてほしい。未世はきっと乗り越えられる…と僕は思っていたい。幻想かも知れない。かけがえのない子を持った人が抱いてしまう甘やかな期待かも知れないけれど。  だから未世が重之の通話履歴から僕に連絡を入れてきた時は揺らいだ。あくまで僕をお父さんの知り合いとした(てい)ではあったけれどその口調や雰囲気はもう誤魔化すことなんて暗黙の了解で、それでも社会的にも立場的にも必要な一線だった。少し情緒が安定していない感じがあった。内容はほとんど懺悔に等しかった。恋人に対する不義への不安を相談する。重之のことを言われているような気になった。僕は未世の前で出来るだけ重之の不和を隠しているつもりでいた。重之に冷めたわけでも恨んでいるわけでもなかった。それでも他の人たちに身体を開いてしまうという事実が受け入れ難く、何より嫉妬し、自分だけでは重之を心身ともに満足させられていなかった現実に悔しくなった。重之から別れようと何度も言われた。それは重之の負い目であることは十分に分かっていた。けれど重之のその選択はまるきり未世の存在を忘れているような気がして、重之の頭の中には僕か未世のどちらかしか居られないようだった。未世はきっと違う。重之を知っているから。重之をよく見ているから。重之とはもう生まれの風格までもが違うから。 「別れたら、きっとその不安からは解き放たれるんじゃないかな」  僕は自分の言った言葉を疑った。どうして未世の目の前の幸せを願えないのだろう。 「それで…お父さんと暮らす?」  未世の幸せを望んでいるだなんて綺麗事だ。親の理想論だ。手離したくない。目の届くところに置いておきたい。掴んだ幸せすら僕の目で見て耳で聞いて口を利かなければ、そんなのはただの自己暗示でしかないみたいで。 『お父さんに…父に、迷惑かけたくないんです』 「お父さんなんだから君を迷惑がることはないと思うけれど…いや、そんな風に言っていてね、彼」  未世は電話の奥で黙った。 『相手がいると思うたび、申し訳なさがあります。でも同時に、ナルが…(なる)というのですが、彼がいるから…もう流されないという気にもなります』  しっかりした口調だった。僕は、未世は未世が思うほどのことは起きない気がした。 「そう思っているなら大丈夫だと思うな。君のその大きな不安が、その不安の絶対的な味方だと思うから」  それなら重之は何だったのだろう。不安なんてなかったのか。僕のことはもう、どうだって。僕の気休めが未世を軽んじているような気がした。 「でも君が押し潰されるなら…相手へ重荷を感じ始めているなら…」  未世を誘惑している。この手にまた戻したい。父と名乗りたい。 『別れるにしても、裏切るにしても(なる)はわたしを許すと思います。それが怖い。わたしはこの不安を抱いたまま(なる)の傍に居ることにします。何でも許して愛してくれる優しい人への身勝手な復讐心として』  僕は相槌を打った。僕の子のはずだ。検査もした。僕の子で間違いない。僕の選ばなかった道を往く寂しさはあるが、僕とは違う道を往く嬉しさもある。 『相談にのってくださって、ありがとうございます。いきなり、探るような電話でごめんなさい』 「いやいや。役に立てたならいいのだけれど」  父なのに。当然のことなのに。謝らなくていいことだし、礼を言うことじゃないし、改まることじゃない。父なのだから。本当は。すぐ傍で肉声で話すことなのに。未世を自分の都合良く誘いかけた嫌悪に僕は久々に視界が滲んだ。携帯電話を握り締めて番号の下4桁だけ覚えると、履歴を消してしまった。

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