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第2話→sideH

ライには感謝してもしきれなかったが、裏の仕事をすることはどうしても言えずに黙って家を出た。 今は高校時代の先輩の松川さんの下で、女を騙したり運び屋と呼ばれる売人へ売り物を届けたりする仕事をしている。 家はないので、先輩の松川さんの家にやっぱり居候をしていて、昼は殆ど寝ているような生活だ。 前に持っていた携帯も解約しちまったので、ライやほかの後輩とも全く連絡をとっていない。 「ヲイ、小倉ァ、今夜はデケエ取引あんだよ。東高のアタマだったオマエの腕はウチのアニキたちも買ってンだ。一緒にこねーか?」 松川さんは、何処か含みがあるような顔をして、タバコの吸い指しを手にしながら俺に問いかける。 こういう顔をするヤツには気を付けなくちゃいけねーのは、昔から良く分かってはいた。 「……アブねー話すか?ソレ」 俺の腕とか言うが、俺はそんなに自信家じゃない。 ライや仲間が使えるヤツらだったのと、ライバルだった奴がアタマに興味なかったので、たまたまアタマに据えられたに過ぎない。 「なんだよ、オマエビビってんのかよ?ちょっとだけ、大金稼ぐだけの話だっての。世の中ハイリスク、ハイリターンだってだけの話だぜ?」 挑発するように、サングラスを外して松川さんはかさかさの焼けた黒い顔で意味深な笑みを俺に見せる。 これは絶対にノッちゃダメな誘いだと本能的に悟るが、挑発されると乗らずにはいられなくなる。 「ハッ、俺がビビるわけねーでしょ?で、いくらになるンすか」 「3千かな」 「3000円すか?!」 「ちげーよ、バカか。3千万だっての」 桁が大きく違ったので、俺は思わず一瞬目を見張った。 「で、オマエ含めて6人でやるから。1人500万てとこだな」 はっきりいって、今の俺には想像もできない金額だった。 「こんなうまい話はなかなかねーし、オマエが可愛い後輩だから俺も仲間に入れてやろうって思ってんだよ。まさか俺の顔をつぶしたりしないよな?小倉」 松川さんは上機嫌でニヤニヤしながら俺を見やる。 ホントにうまい話しなら、俺なんかを誘うわけはない、と、心のどこかでは感じていた。 だけど、顔を潰すなとか上下の理みたいなもんを、出されてしまうとあがらうことは出来ない。 「オマエも、オンナたらして食いつなぐ生活はもうオサラバしたいだろ?」 「そ、そうっすね…………」 俺の反応にニヤリと松川さんは笑うと、バンバンと背中を叩き、 「そんじゃあ決まりだな。後で仲間がくるから紹介してやる。決行は、今夜1時だ」 カチリと松川さんはタバコに火をつけて立ち上がると、俺の返事も待たずにさっさと出ていった。 置いていかれた俺はイヤな予感だけがこころにずっしりとくすぶっていた。

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