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第13話→sideH

気がつくと真っ白な古びた病室だった。普通の病室ではないなとは気がついた。 なんだったか。 たしかに、俺はヤクザの事務所にいたはず、だった。 頭も混濁していてよくわからない。 たしか、腎臓を売るとか言われたとこ、だったか。 身体がダルイのは、きっとそのせいかもしれない。 カバンが見つからなければ、腎臓だけじゃすまされないな。 まざまざと迫ってくるのは、逃れられない現実だ。 「起きたのか、ガキ」 おっさんは見張りなのか、横で雑誌を読みながら座っている。 「おきた」 「泣きわめかねーんだなァ、オマエは。ハルカだっけ」 興味深そうに目のとこの皺を深めてオッサンは聞いてくるから、とりあえず頷く。 「俺の腎臓、売れたのか?」 「いきなり確信からくるな?怖くはねーのか?まーな、2000万でぼったくっといた。頑丈そうだし、若さをアピールしたからな。俺はやり手だからな」 褒めろとばかりのオッサンの口調に俺は思わず吹き出す。 なんかヤクザにしてはくだけたオッサンである。 歳は40代くらいか。そんな感じだ。 「腎臓1コしかなくなったら、何かヤバイ?」 不安から思わず聞くと、オッサンは真顔になる。 「健康に気をつけろ。メシはコテコテのを食うな。酒も控えめにしとけ」 かったるいなぁ。マジで。 死んだほうがマシなのかもしれない。 「カバンは見つかりそう?」 俺の命運握っているわけだしなァ。 「松川浩樹は見つけて、ヤツが持ってた100gは回収したけどなァ。拷問の最中でおっちんじまったから、残りの400gの行方がわかんねーのよ」 松川さん、死んだ、のか。 なんだか、実感がわかなかった。 俺を騙してハメたのは、あの人だっていうのに。恨みとか憎しみもなんにも沸いてこなかった。 「し、んだんだ。」 俺も、近いうちに死ぬんだろうな。 なんだか、そんな気がして仕方がない。 「そうだな、テメーも騙されたんだし、泣きそうな顔してんなよ、ハルカ」 オッサンは俺の頭に軽く手を置いて慰めてるのか髪をなでつける。 たしかに、騙された。 だけど、わかってた。 あの人のために、俺は泣きそうな悲しい顔してんのか? それは、違うな。そんなの感傷は俺にはない。 「残り、見つからなかったら、俺が返すのか」 俺が泣きそうなのは、全然別のことだ。 松川さんが死んだら、他の4人の手がかりがなくなる。そしたら、俺に全部降りかかるからだ。 「そうだなァ。腎臓で2000もらって、松川ので、750万帰ってきたからなァ。あと、250万。1ヶ月、カバン見つからなかったら、身体売ってもらうしかねーな」 「肝臓とか心臓とか、か。それは死ぬか?」 「それ以上内臓売ったら、死ぬだろうなァ。あと売れんのは、売春くらいか」 オッサンは俺を哀れむように見下ろす。 あと1ヶ月で、カバンが見つからなければ、か。 「俺はでけーし、ツラも良くねェが、需要はあるのか?」 「まあな、ツラは可愛くはねーけど、SMとか系なら、1回が高く売れるからなァ。そっち向けだろうな」 あとは、若頭が決めるだろうけどと付け足す。 まあ、250万の値段でどんだけ売れるか、か。 死ぬよりはマシなのかもしれない。 「つうか、オマエ、肝据わりすぎだろ」 オッサンは呆れたような、少しだけ俺を見る目を変えて呟いた。 「そうだオッサンの名前、教えてくれよ」 「俺は河島だ」 仏頂面がおもしろい。 「下の名前!」 「馴れ馴れしいな。河島英五」 「エーゴさんかァ。それっぽい名前だな」 オッサンもといエーゴさんは、俺の感想を聞くと少しだけ照れたように視線を逸らした。

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