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第31話→sideRT

話をつけるだけと言うのに、何故かこんなにも焦燥している。 勤務先に半休届けを律儀に出して、工藤さんから聞いた組の事務所があるという駅の最寄りで車を駐車場に入れる。 身分証明とかになりそうなものはなるべく持たない方がいいと五十嵐さんから忠告を受けたので、免許やカード類を入れた袋を駅のロッカーに預けて、ロッカーの鍵と財布だけを持った。 将兵のようにコスプレをする気もちにはなれず、スーツのままで待ち合わせ場所へと向かった。 見慣れた赤縁の黒い学ランの制服が既に10人くらい集まっている。 組に乗り込むという危険な話に集まる人望は士龍の人徳だろう。 「峰ちん、こっちは揃ったよ。将兵もコスプレしてきたし」 よく見ると見慣れた格好の将兵が、ちょっと居心地悪そうに立っている。さすがに恥ずかしいらしい。 士龍は相変わらず余裕そうな表情をしている。 「あ、これが俺の同級だった峰ちんね。1年はハジメマシテだよな」 「ハジメマシテ!峰先輩すね!!1年の笠間っす!」 ピンクの髪の頭一つ下あたりの子が、軽く頭をさげる。 すごく礼儀正しいように思える。 「お、おう。今日は迷惑かける」 なんだか、いつもの調子での軽口もでてこない。 「こんにちはー。初めまして!!えっと、俺は1年3組の長谷川北羅です。峰先輩、スーツカッコイイですね!俺もスーツきてみたいなー!」 身長は高いがふわふわと緊張感のない声で、柔らかく笑うまだ幼ない表情の1年に一瞬ひるむ。 喧嘩もしたことがないような、こんな子連れてくのか? 士龍は一体何考えてんだ。 「士龍ちゃん、おい?この子大丈夫なのか?」 思わず耳元で尋ねてしまうと、士龍は少し空を見やり、 「多分、この中でキタラが一番強いんだよねー。ハセガワの弟って言ったら、少しはわかる?」 ぼそりと怖いことを呟いた。 この地域最強最悪なヤンキーだった男の弟だと。 顔だけ見ると、少し似ているようだったが、雰囲気が違いすぎる。 「俺らより、怪我はしないだろうよ。まーキタラになんかあったら、トール君引き込めるかなーとかいう打算もあるけど」 そういう切り札的な存在なのか。 イヤイヤ、それはダメだろう。とは、思うが。 「来てくれて、本当にありがとう、な」 あまり礼とかは言い慣れない。 あとは、2年の川嶋と3年の木崎、富田、元宮、三門といった武闘派のメンツなのはすぐに分かった。 つい半年ちょっと前に抗争したメンツだ。強さは心得ている。 「俺らは峰さんに手を貸すわけじゃないすから」 木崎は真正面から俺に告げる。 確かにそりゃ分かってるつもりだ。 「それは分かってるさ。手を貸してくれることには、ありがてぇと思ってる。そんだけだ」 木崎も、富田も顔を見合わせて俺を胡散臭そうな表情をしている。まあ、そうだよな。 それだけのことを、俺はしている自覚はある。 「昔のコトは水に流そうぜ。俺らは東高の仲間なんだからよ」 木崎や富田の肩をとんとん叩く士龍に、俺はもう頭が上がる気がしない。 「じゃあ、行くぜ。峰ちんも、そんなしけた顔してねーの。ヤクザ相手なんだからビビッたら負けだぞ」 能天気な口調で士龍は、俺の背中を押した。

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