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第32話→sideRT

工藤さんから渡された名刺に書かれた事務所の場所は、繁華街のうらびれた場所だった。 そこは、見るからにやばそうな雰囲気である。 緊張で体がこわばって、明らかに顔の表情筋がおかしくなっている。 どうにかして、ハルカを取り戻さなきゃとばかりに頭がぐるぐるとしている。 いつだって冷静沈着と呼ばれていたのに、いまの俺にその名残すらなく、冷や汗がダラダラとスーツの中で湧き出てくる。 「本丸の事務所じゃなくて、ここは分所みたいなとこだね。でも、まあ、ヤバイ人多そう」 士龍は、特有のいつもどおりの余裕ある表情をむける。この男はいつだって怯まない男で何を考えているのか読めない。 だから、苦手だったのだ。 士龍は躊躇うことなく分所のドアを開いて、まるでショップにでも入るかのように、何気ない様子で中に入っていく。 って、オイオイ何いきなり準備なく入っていくんだよ!? 慌てて俺は士龍の後を追って中に入る。 ホントにこいつのこーいう行動は、勘弁してほしい。心の準備とかあるだろうが。 笑顔のまま中に入っていった士龍は、受付のいかつい男に声をかけている。 将兵はちゃっかりと士龍の後ろについて、いかつい男に威嚇するような顔つきをしている。 おーい!!マジで、こいつら、コワいものなしかよ!!ヤクザだぞ。ヤクザ。 突っ込みどころ満載だが、俺も慌てて士龍の横につく。 「こんにちは。ここで、1番偉い人に会いたいんですけど?」 士龍の裏を固めるようなフォーメーションをとりながら、階段を降りてくる構成員に対しても隙をみせない。 高校生相手に本気にはならないだろうが、ヤクザであるし油断はできない。 「はあ!?オマエら、東高のガキどもか。あー、就職希望か?いきなり偉い人にって大きくでたな」 受付の男は特に脅された感もなく、様子を見ながら静かに凄んでみせる。 もちろん、士龍はそんな凄みに尻込みした様子もない。 「ごめんなさい。就活とかじゃないんだ、人を1人探している。ここで世話になってると聞いたんで、引取りにきたんだ」 士龍の言葉に俺はポケットから、ハルカと卒業式の時に撮った写真を出して見せた。 士龍とやりあって入院してたんで卒業式には出られなかったが、病院で一緒に撮ったものだ。 男はそれを見ると一瞬目をとめて、しばらく間を置いてから首を横にふる。 「東高出のガキは周りにわんさといるからな。ちと俺は覚えてねーな。人探しなら、探偵さんかサツに依頼するんだな」 けんもほろろな口調であしらう男に、俺は思わず手を出して襟首をつかんで引き寄せた。 周りの空気が一触即発に凍った。

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