32 / 85
第32話→sideRT
工藤さんから渡された名刺に書かれた事務所の場所は、繁華街のうらびれた場所だった。
そこは、見るからにやばそうな雰囲気である。
緊張で体がこわばって、明らかに顔の表情筋がおかしくなっている。
どうにかして、ハルカを取り戻さなきゃとばかりに頭がぐるぐるとしている。
いつだって冷静沈着と呼ばれていたのに、いまの俺にその名残すらなく、冷や汗がダラダラとスーツの中で湧き出てくる。
「本丸の事務所じゃなくて、ここは分所みたいなとこだね。でも、まあ、ヤバイ人多そう」
士龍は、特有のいつもどおりの余裕ある表情をむける。この男はいつだって怯まない男で何を考えているのか読めない。
だから、苦手だったのだ。
士龍は躊躇うことなく分所のドアを開いて、まるでショップにでも入るかのように、何気ない様子で中に入っていく。
って、オイオイ何いきなり準備なく入っていくんだよ!?
慌てて俺は士龍の後を追って中に入る。
ホントにこいつのこーいう行動は、勘弁してほしい。心の準備とかあるだろうが。
笑顔のまま中に入っていった士龍は、受付のいかつい男に声をかけている。
将兵はちゃっかりと士龍の後ろについて、いかつい男に威嚇するような顔つきをしている。
おーい!!マジで、こいつら、コワいものなしかよ!!ヤクザだぞ。ヤクザ。
突っ込みどころ満載だが、俺も慌てて士龍の横につく。
「こんにちは。ここで、1番偉い人に会いたいんですけど?」
士龍の裏を固めるようなフォーメーションをとりながら、階段を降りてくる構成員に対しても隙をみせない。
高校生相手に本気にはならないだろうが、ヤクザであるし油断はできない。
「はあ!?オマエら、東高のガキどもか。あー、就職希望か?いきなり偉い人にって大きくでたな」
受付の男は特に脅された感もなく、様子を見ながら静かに凄んでみせる。
もちろん、士龍はそんな凄みに尻込みした様子もない。
「ごめんなさい。就活とかじゃないんだ、人を1人探している。ここで世話になってると聞いたんで、引取りにきたんだ」
士龍の言葉に俺はポケットから、ハルカと卒業式の時に撮った写真を出して見せた。
士龍とやりあって入院してたんで卒業式には出られなかったが、病院で一緒に撮ったものだ。
男はそれを見ると一瞬目をとめて、しばらく間を置いてから首を横にふる。
「東高出のガキは周りにわんさといるからな。ちと俺は覚えてねーな。人探しなら、探偵さんかサツに依頼するんだな」
けんもほろろな口調であしらう男に、俺は思わず手を出して襟首をつかんで引き寄せた。
周りの空気が一触即発に凍った。
ともだちにシェアしよう!