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第35話→sideRT
若頭は、俺の言葉に顎先に指を当てて少し眉を寄せる。
「ハルカ?…………ああ。アレかァ。まあ、アレは殆ど元金は回収しているからなァ」
「パーパ、お願いだよ!」
長谷川弟は甘えるように、若頭の腕をギュッと掴んでオネダリする。
「勿論、タダでとは…………」
「そうだな。周りへの示しというものもあるからな。アイツが普通の生活が送れるかわからんが、オマエが面倒をみるってのか」
少し含みがあるような調子で、若頭は俺の顔を覗き込む。
普通の生活?
少し不安に思うが俺に別の選択肢はない。
「元より、ハルカを取り戻せるなら命を賭けるつもりできました」
俺の言葉にふと笑うと、机の中から印刷された紙を取り出して俺に渡す。
「30万この口座に振り込んでおけ。利子として受取っとくわ。あと、500は稼がせるつもりだったんだが、出血サービスだ。ソッチの奴は出血しとるし、詫び含めてな」
「ありがとうございます」
口座の書かれた紙をじっとは眺める。
「名前は?」
ああ、振り込んでもわからねえしな。
「峰頼人です」
「ミネね。ああ、ハルカの兄弟か」
「いや、兄弟じゃねえです。ハルカのは偽名です」
俺の言葉にお前は本名なんだなと、苦笑されてぽんと頭を叩かれる。
「偽名くらい使えや。あんままっ正直だと、足元掬われるぞ」
腹を揺らして笑う様子は、組の若頭という感じはしなかった。多分息子がいるので、父親モードになって瑠のだろう。
「店にはワシが電話しとくから、引き取りにいくといい。キタラは飯食うて帰るか?」
「ん。今日の当番はセイハ兄だから、パーパと帰る。あ、駅前のラーメン屋さんの餃子食べたい」
すっかり和んでしまっていて、俺は緊張の糸がほぐれたが、後からあやをつけられたら困るので、手にしてある紙に書かれた口座へ、スマホですぐに振込みをすませる。
「いま、送金しました。これで、ハルカは自由ですね」
俺の言葉に、行動が早いのは嫌いじゃないなと呟いて、若頭は頷いた。
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