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第36話→sideH
犬や猫の方が、きっと俺よりはマシな生活をしているに違いない。
俺はずっと張形のついた拘束具を取り付け、排泄の自由すら奪われて、電話越しの水上に許可が必要で日に日に俺の感覚を麻痺させていった。
「ハルカ、アンタもう1週間も水上に買われてないけど大丈夫かしら?」
我慢ができない時はこちらから、水上に買ってくださいと電話してすがらないといけない。
他の人に売ることができないので、串崎も水上から売り上げがあがらないのは困るのだろう。
「ハッ、わざわざ買ってくださいなんていうかよ」
とは言っても、我慢出来なくなるまでいつも10日とかからない。
「ハルカさ、いつもそれで最後に泣き入れるじゃないの。つらいのはアンタなのよ」
串崎はふうとハンサムな顔を緩めて俺を諭す。
「俺だって、そんでも水上には感謝してんだよ。わけのわからない奴に売られまくったら、ぶっ壊れてたかもしれねーしさ。だから、どーしようもなく理性ぶっとぶまで我慢してーんだ」
多分、俺の考えは串崎にはわからないだろう。
調教とかしまくって、プライドとか全部なくした奴らを売るのが仕事なんだから、どうせなくなるもんなら、早く捨てて楽になれよと言いたいのかもしれない。
「馬鹿な子ね。まったく。だから、ひねくれものの水上が気に入っているのかもしれないけど」
「調教が完了したヤツらはさ、幸せなんかな」
抱かれることが、普通になっていて快感とか尽くすこととか、全部それが生きがいみたいになるのは、怖いことだが、どこかでその方が楽だと思っている。
俺みたいなクズにはうってつけの最後だ。
「そうね。幸せになるように祈りながらあたし達は調教しているのだけどね、あら、電話だわ」
串崎は電話に出ると、俺をちらちらと見ながら話す。
なんだろうか。
水上からの呼び出しかな。
さすがに1週間我慢したし、あっちが折れてくれたかな。
電話を切ると、ふうっと串崎は息をついた。
「トラさんからだったわ。あなたの借金、肩代わりする相手が見つかったから、着いたら一緒に帰らせろって」
「なんだ、それ。俺は買われたってことか?」
俺はわけがわからず、拘束具を外していく串崎を眺めていた。
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