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第37話→sideH

全ての拘束を外されて、やって来た時に着ていた服を着せられる。 2ヶ月にも及ぶ調教をされてきて、いきなり解放とか言われても、何だか全く実感もないし脳みそがついていけてない。 「なあ。水上との契約は、どうするんだ?」 「トラさんが、違約金とか諸々全部面倒みるって話だし、わさわざトラさんには逆らいたくはないわ」 まだ頭がまったく整理できていないが、拘束をはずされても股間はイキっている。 今回はさすがに我慢しすぎたか。 「大体、一体誰が迎えにきたっていうんだ。俺には帰る場所なんかねーし」 「……私は知らないわよ。トラさんが言うには、峰って名乗ってるそうよ。同じ苗字だし、あなたの兄弟なんじゃないの?」 「…………みね、ってソイツはいったのか」 まさか、ライがきたというのか。 あれ程、裏の仕事をしたら縁を切るといっていたのに、忠告も聞かずに裏の世界に足を突っ込んだ俺を迎えにきたというのか。 縁を切られたと、勝手に思っていただけなのか。 「貴方にも、そういう兄弟がいるんじゃないの。誰もいないなんて感傷ね。まあ、男に抱かれる体にしちゃったけど、よっぽど困ったら遊びにきてもいいわよ」 串崎は、面白がるように呆気にとられてしまった俺を見下ろす。 できるわけねえ。 いまさら…………。 ライにどんな顔をして会えばいいんだ。 こんな、姿を晒して、アイツの側になんかいれない。 俺は冷や汗が額に浮かんで落ちるのを感じる。 この姿を見せるくらいなら…………さっさと死ねばよかったんだ。何でグズグズしてたんだ。 いつだって、俺はライの大将だったし、ライは俺に従う特攻隊長だった。 そういう間柄だ。絶対に弱味なんてみせられないのに。 「こんな、俺じゃ、会えない。会いたくねェ!!」 「って言われてもね。あら、迎えに来ちゃったみたいよ。ちゃんと引渡しておけってトラさんに頼まれちゃったし。危ない、逃げないでよ」 串崎は逃げ出そうとする俺の様子を見ると、カチャリと手錠をかけて近くの椅子の背に引っ掛けられる。 串崎はフウテン野郎の言いなりだし、このままじゃ逃げるのもままならないし。 どうすりゃいいんだよ。舌を噛み切るか。 死ぬとか、平気でできねえ。そこまで、肝が据えられねえ。 奥歯をグッと噛み締めて、天井を見上げる。 万事休すだな。 「……ッハル、カ!?ハルカ!?」 部屋に入ってきた様子が分かり、身構えると何ヶ月ぶりかに聞くライの切羽詰まったような声が響く。 頬が少しこけていて、かなり疲れた様子でやつれたようなそんな風情がある。 いつだって不敵にみえていた人を小馬鹿にした調子もない。 「ライ、…………なんで、だ?」 見ないで欲しい。ライにはいつでも強い俺でいたい。だから、俺は、あの時ライの家を出たのに。 「帰ろう。ハルカ。話はついたからさ」 ライは近寄ってきて、椅子に掛かった手錠を外して俺の腕をとる。 帰るって、どこにだよ。 帰る場所なんて、どこにもないだろ。 …………俺には。もう、なにもない、だろ。

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