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第38話→sideH
「ハッ、帰るって、どこによ?一体どこに帰れるって言うんだよ」
俺には何も無い。
内臓も売っぱらっちまって、食い物もまともに食えるかすらわからない。
それに、調教されちまってちゃんと戻れる自信もねえし、俺に出来る仕事はないだろう。
なんにもねーし、余計にめんどくせーことになってるってのに、俺には、ライに返せるもんなんか何も無い。
「いいから。俺が、全部面倒みるから。だから」
ぐっと掴まれた腕を、俺は力任せに引いて首を振る。
それが嫌だから出ていったのに、なんでわかんねーのかな。
「テメエが俺を飼い殺しにするってのか。ハッ、親切心だか腐れ縁だかしらねーけど、テメェは余計な真似すんな」
口から出てくるのは、苛立ちまぎれの憎まれ口しかない。
ライの顔を見れば、酷く憔悴しきっていて必死で探してくれてたのくらいわかる。
わかるだけに、それだけに。言わずにはいられない。
「余計な世話……すんな」
「帰ろう、ハルカ」
ぐっと握る手が、汗ばんでいる。
必死に食い下がる顔つきは、今までみたことが、 ないくらい真剣で、俺は怖くなって首を振る。
こいつにだけは、絶対に弱味なんて見せたくない。
ここにいても、いつかは壊されちまうのは目に見えていたけど、それでもこいつに弱味を見せるよりマシな気がした。
ライの目からポロッと涙が伝う。
あー、くそ、泣かせちまったなとぼんやり思う。
瞬間、ぐっと力強く腰を掴まれ背後からきた誰かに抱えあげられる。
「もう、ハルちゃんも駄々こねないのー。長居したくねーし。メンドクセーから。峰ちんも優しくしすぎだからねー」
「…………士龍ちゃん。ちょっと、それは乱暴すぎだって」
ライが呼んだ名前に、俺は胸が絞られるように痛む。
その名前は高校時代にかなわない片思いをしていた相手、真壁士龍だったからだ。
「どーにも格好つかないから、駄々こねてるだけだろ。いーじゃん、ハルちゃんのこと峰ちんが金出して買ったわけだし。久住に話をつけたのも峰ちんなんだし、遠慮してんなよ」
俺を肩にかつぐ真壁の上で暴れようとしたが、ぎっちり体を掴まれていてかなわない。
相変わらずの馬鹿力だ。
「士龍ちゃん、オマエさっき撃たれたとこで担いでて痛くねーのか?」
ライは心配そうに後ろからついてきながら、店の階段を登っていく。
「痛いけど、峰ちんのガタイじゃハルちゃん担げないだろ」
「くそ、テメェらも、俺を商品扱いするのかよ」
車の後部座席に投げ入れられて、足をぐるぐるとビニール紐で巻かれて文句をいうと、後部座席に乗った真壁に顔をのぞき込まれる。
こいつを強姦したあの日から、実際に会うのは初めてだ。
恋心は無理矢理消したが、こいつに会う心の準備をしていない。
「ハルちゃんも、峰ちんの気持ちも考えろよ。ずっと探してて、将兵に頭をさげてさ、色々あった俺にも頭をさげてまでしてお前を探してたんだよ。それを無碍にするのは、俺は許さない」
ライは士龍の言葉に何も言わずに車を出した。
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