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第39話→sideH

俺を放りこんだ後に後部座席の隣に座った男を、改めて馬鹿じゃないかと思って見上げる。 彫りが深くてキレイな緑の目をしている。 聞いた話だと少し外国の血が混ざっているらしく、本当に綺麗な顔立ちだ。 こいつを俺とライは、卒業する前に脅して輪姦した。 「ハッ、真壁、オマエもオカシイだろ。たとえライに頭下げられたとしたって、ワザワザ俺なんか助けてなんになるんだよ。オマエ、俺らに何されたか忘れたのか?怪我までしてんじゃねーの、馬鹿なんじゃねーか?そんなんで俺らに恩売ったとか思ってんのか」 ついつい腹立ちまぎれに吐き捨てるように言ってしまう。 「ハルカ!!」 言い過ぎだとばかりに、運転しているライは吼える。 ライにだってこんな姿を見られたくなかったのに、こいつまでココにくるなんて、俺の矜持はガタガタだ。 「…………まあ、忘れるとかはねーよ。峰ちんの必死な姿を見て。自分と重ねただけ。別にハルちゃんが恩に着る必要はねぇよ」 平然と静かに返す真壁に、俺の腹立ちは収まらなくなる。 恋心を抱いていたが、そんなものは今はどうでもよくなる。 「笑えるくらいハッピーな頭だな。テメェは。あいかわらず」 「ハルカ、言い過ぎだ。わかってんだろ、あのままあそこにいたって借金なんか減るわけないって」 ライの冷静な声に、現実に引き戻される。 だとしても、俺はコッチで何も無い。 何も無いのに。 「…………ライ、テメエにも真壁にも、俺はなにも返すもんがねーんだよ。これ以上、情けないこと言わすなよ」 いつだって、ライは俺の第1の家来でそうでなきゃいけなかった。 大将が家来に頭を下げるとかありえない。 「ハルカ、俺は別に礼が欲しくてオマエを取り戻したわけじゃねーよ」 ハンドルを切りながら、ライはすっと目を細める。 いつだって、ライは俺の忠実な下僕だった。 何かして欲しいと思ったときには、すでにお膳立てしてくれるような抜け目のない、ただ1人の幼馴染み。 「いつだって、ハルカからの礼なんて期待して動いたこたねーからな」 「じゃあ、なんだよ!?」 「ここじゃ、言わない。士龍ちゃん居るしね」 「あ、峰ちん、そろそろ予備校のちかくだから、俺を降ろしてね」 のんびりと真壁は方向をライに指示する。 「をい、病院いかねーのかよ?!銃で撃たれたんだし、やべーよ」 「さっき応急処置してもらったし、帰りに病院行くから平気。家族特典で時間外診察できるから」 真壁はそう言って、停まった車を降りてでかいビルの方へ向って走っていった。 「一体なんなんだよ、ライ」 俺は走り出した車の中で食いつくように、問いをなげた。

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