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第42話→sideH
ライは、なんであんな事を俺に言ったのだろう。
射精した脱力感と、ライにいわれた言葉でぐるぐるしているうちに、身体を拭かれてスエットを着せられ、気がつくと夕飯の支度をした食卓の前に座っていた。
昔からライは手際がいいし、かなり要領も良かった。
「ハルカの好きな唐揚げと、ハンバーグな。サラダもあるからちゃんと食えよ」
茶碗に飯をよそりながら、ちらとこちらを気にするようにみてくる。
「なあ…………ライ?さっきの、いつから、だ?」
いつからライは、俺を好きだったんだ。
ずっと、って、いつからだ。
ずっとなら、何で俺が好きだった士龍が欲しいと言ったときに、ライは協力してくれたんだ。
「さっきのって?」
首を傾げてとぼけた表情をする。誤魔化す気がみえみえでかなりムカつく。
それとも、俺から答えを聞きたいのか?
「オマエが…………俺を、好き、だと言っただろ」
それとも、あれはリップサービスか?
そういう雰囲気だったから流されて、言ったのか。
「あは、あーね。ハルカは…………気にしないでイイって。幼稚園のときにフられてんだし。そん時から、ずっとだ」
幼稚園、だと。
そんなの、フッたとか覚えている訳がない。いつも物心ついた時には一緒にはいたが。
「……いつ、フッたよ?」
「だからさ、いーじゃねーか。別にハルカが士龍ちゃんにまだ未練あんの分かってるし。…………俺はそんでも、ハルカがずっと好きだからさ」
視線を落として俺の目の前に茶碗を置いて、ライはいただきますと食べはじめる。
それで話を終わらせようというのが、気に食わない。
「俺はフッた覚えも、告られた覚えもねーぞ」
「幼稚園の時、俺は、ハルカに嫁さんにしてくれっつった。ライは男だから無理だって、イヌにならしてやるって言っただろ?」
一体、こいつはいつの話しをしてんだ。
言った覚えは、かすかにあるっちゃああるが、ままごとの配役の話じゃなかったか。
そんな配役を、今の今まで引きずってるとか。バカなのか?
俺は面食らって、目の前の男を見返した。
「オマエは、いつまでも俺のイヌのまんまでいいのか?」
唐揚げを箸でつまんで、口に運び味わう。
俺好みのこしょうと生姜のきいた絶妙なうまさで、他にこんな味を出せるやつはいない。
「なんだよ…………ハルカ。期待しちまうだろ。そんな言い方すると」
ぐっと眉をさげて困惑したようにライは、俺を静かに見る。
「俺を助けたのは、なんでだ?好きなだけで、プライド捨てて頭をさげて、命懸けられるもんか?」
「バカだなあ。俺にはプライドとかそんな大層なもんはないし、俺の命なんか、オマエの命よりどーでもいーんだよ。そんでもオマエのイヌだって言われた時には、スゲー嬉しかったんだよ」
そう言い切るライは全てを達観しきっていて、長年俺はこいつの気持ちを踏みにじりまくっていたことに、今更ながらに気がづいた。
「俺は何にももってねーよ。どーにもならなくなったイカれた身体しかない。それでも、オマエにはごほうびになるか?」
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