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第73話→sideH
目を開けるとぼんやり天井が見えて、俺は少し落胆した。俺はまだ狂ってない。
狂って何もかも分からなくなりたいのに。
綺麗に拭かれた体と、顔に触れると軽く湿布が貼ってある。隣に抱きつくようにライの顔が見え、目元が赤く腫れているのを見て、俺は溜息を吐き出した。
こいつ、また泣きやがった。
もう、ダメだな。
我慢ができない。
俺は辛いのも惨めなのも、本当に嫌いだ。
ライの体を除けてベッドから降りると、ハンガーに掛けてあるライのズボンのポケットから、財布を抜き取る。
ライは大事なものは全部財布にしまう癖がある。
財布のカード入れから、俺は目的のモノを引っ張り出した。
水上から貰った名刺である。
財布の札入れから、3000円と小銭を引き抜くとすぐに元に戻し、脱ぎ捨てられた昨日着ていた服を羽織る。
ここに居たら、多分ライをずっと傷つけることになるし、俺も我慢できない。
いっそ狂えたらよかった。壊れられたら、良かった。
それでも。
「助けてくれなきゃ、よかった.........なんて、嘘だ」
それでも、心のどこかで見つけて欲しいと願ったから、ミネハルカだなんて偽名を出したくらいの深層心理だ。
感謝もしている。
悪いのはいつだって、すべて俺だ。
好きだと言ってくれたのに、全部を裏切る。
ライの頬を軽く撫でて、俺は腫れた瞼に唇を落とす。
大事な幼馴染みで、いつでも後ろをついてくる、忠実な犬。
オマエには幸せになってほしい。
だから、もう、探さないでくれ。
顔をあげると、俺はマンションを出て鍵を閉め、ドアポストに鍵を突っ込んだ。
カランと響く金属音が戻れないというピリオドのように耳に残った。
そして、俺は、名刺にかかれた住所へと向かった。
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