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第2話

 収録当日。収録に丸一日かかるそうだが、朝七時集合はかなりキツい。まずは服を着たまま、プールサイドへ。プールに向かって全員で体育座り。競技の説明兼リハーサルだ。海パン姿のスタッフが、競技の見本をする。  外は蒸し暑い梅雨空で、室内プールも野郎たちの体温で暑い。体温高いむさ苦しい野郎は、俺を入れて選手は総勢四十名。二十名ずつ、紅白に別れて競技をする。それに、司会者のお笑い芸人とアシスタントのアナウンサー、二人とも男性だ。  背の高い人低い人、日に灼けた人色白の人。さまざまな人がいる。全然、テレビで見ない顔だらけだ――って、それは俺も同じだな…。  茶髪や金髪のひ弱そうでチャラそうなグループは、地下アイドルたちだな。そんな人々の中、ひときわ目立つ人が隣に座っている。ツンツン短い黒髪、灼けた褐色の肌、首は太くて肩幅が広く、Tシャツの袖から出た腕がたくましい。胸筋だってこんもりしてて、筋肉っつーよりオッパイだな。 俺も逆三角形の体型でわりと自信はあるんだけど、この人に比べたら貧弱に見えるかも…。居酒屋のバイトのせいで太陽の下に出ることは減り、水泳部時代より色白になったしな。  なんてチラチラ見ていたせいか、目が合ってしまった。気まずくて引きつった笑顔で会釈したら、真っ白な歯を見せてニコッと笑ってくれた。…めっちゃイケメンじゃん…。ますます羨ましい。  リハーサルが終わって休憩に入ったとき、隣の褐色ガチムチ男性は俺に声をかけた。 「どうも、はじめまして。俺、俵屋豪(たわらやごう)っていいます。よろしく」  と、分厚い右手を差し出した。握手も力強い。 「はじめまして、山田善です。まだデビュー一年の新人俳優で…この番組、初めてなんですよ」 「そうなんだ。俺は今年で五回目なんだけどね」  やべえっ、先輩だ! この世界、後輩から先に挨拶しないといけないのに。それでも俵屋さんは嫌な顔ひとつせず、にこやかに話してくれる。三十歳で、毎回フォトジェニックと相撲大会に出されるそうだ。ガタイがいいのは、趣味で筋トレをしているから。短髪でガチムチで一見怖そうだけど、屈託のない笑顔は爽やかだ。おまけにイケメン。俳優だろうか。これだけ見た目がいいなら、もっと売れそうな気がするのに…。  とても丁寧な物腰は、売れっ子タレントには見られない。うちの事務所の先輩なんて、みんな偉そうだ。俵屋さんを見習ってほしい。  俵屋さんは紅組で、俺は白組だ。敵同士だけど、お互い頑張りましょうと握手をした。  その後食事休憩があり、普段はレストランになっている場所で、台本を確認しながらロケ弁を食べた。  そこで気づいた。俵屋豪さん――水上相撲大会での、俺の対戦相手だ!  休憩が終わっても、まだ俺たちが出る本番は始まらない。アイドルたちの歌の収録がある。さすがにアイドルがフンドシで歌うのはアレだから、海パンにパーカーやTシャツを着ている。  ああ、彼らも競技の時はフンドシになるのか。ファンの女の子たち、どう思うんだろう。押しメンのお尻が見られて、嬉しいんだろうか。  歌の収録の合間に、出場選手が次々に呼ばれる。更衣室で着替えだ。たった四十人だが、数名ずつ順番に着替える理由は、フンドシだから。ほとんどのメンバーが、フンドシの締め方を知らない。もちろん俺も。スタッフに手伝ってもらわないといけないため、数名ずつなんだ。  パンツも脱いでマッパになると、スタッフに白い布の端を持たされた。 「これを胸の辺りで押さえててください」  布を股の下に通し、スタッフがギュウッと引っ張る。股に布が食いこんで痛い。 「はい、そっちの端くださーい」  スタッフはかなり手慣れているのか、手際よく布をねじり、フンドシを装着してくれた。  鏡に映った姿を見ると、かなり恥ずかしい…。俺のこんな姿が、テレビで流れるのか。いや、オンエアだけじゃなく、見逃し配信まであったりして…。将来有名になったとき、バラエティー番組なんかで“フンドシ水泳大会に出たことがある”とか暴露されて、今日の映像が出るんだ。そんな俳優やアイドルも実際いるからな、ヤバいぞ。  ふと、鏡に俵屋さんが映った。褐色に灼けた肌はきめ細かくてきれいで、胸筋はやっぱりオッパイだ。腹筋のシックスパックは俺よりくっきりと割れていて、大腿筋も太い! …ついでにアソコも見てしまった。アンダーヘアが無い。俺みたいに全部剃ったんだろうか。気合い入ってんな。  やべっ、俺は何で男の着替えなんて見てるんだ。でも、俵屋さんはさすが経験者。スタッフに手伝ってもらわなくても一人で器用に赤いフンドシを締める。尻の形も縦にキュッと引き締まってきれいだ。  プールサイドには、赤と白のフンドシ野郎がズラリと並ぶ。  さあ、いよいよ『雄尻だらけのフンドシ水泳大会~ポロリもあるかも?! で~んぶ見せちゃう♪』が始まるぞ!

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