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第3話
「第八回! 雄尻だらけのフンドシ水泳大会ーッ! ポロリもあるかも?! で~んぶ見せちゃうーッ!」
司会者のタイトルコールの後、太鼓担当の俺が勢いよく太鼓を鳴らす。周りではチアホーンやタンバリンも加わり、パフパフシャンシャン派手に盛り上がる。
「さあ! 夏本番ということで、ご覧ください、雄の匂いプンプン、紅白フンドシ野郎のこの勇姿!」
恥ずかしいぐらいに煽られるが、うつむいてなんかいられない。みんな笑顔で手を振る。
司会者とアシスタントの軽妙なトークの後、紅白の応援席に別れてプールサイドに設えられた雛壇に座る。プールの向こう側に、固定されたカメラが三台。プールの両端にもカメラが一台ずつある。それと二人、ハンディタイプで動きながら撮るカメラマンが。
社長には何度も念を押された。雛壇にいる時も笑顔を絶やさず、応援も力いっぱいやれ。
この番組からメジャーになる芸能人は多い。明らかにやる気無さそうにするより、笑顔で精一杯頑張った方が好感度も上がる。
水球、騎馬戦と競技が続く。俺は雛壇から声援を送り、惜しみない拍手も送った。相手チームの健闘を称える拍手も。
紅組の方をチラリと見ると、俵屋さんもメガホンを使って声援を送っていた。頭には赤くて長い鉢巻き。そうだ、リハーサルでも見たけど、俵屋さんは紅組の応援団長だ。
続いては、紅白応援合戦。まずは紅組の応援から。紅組の雛壇の前に、俵屋さんが両手を後ろに組んで立つ。横から見ても、雄ッパイの盛り上がりが凄い。赤い前袋も、こんもりと――そういや着替えのときにチラッと見たけど、俵屋さん…かなり大きい方かも。
「フレーッ! フレーッ! あ・か・ぐ・み」
胸を張り、片方ずつ赤い手袋をはめた手を斜め上に挙げる。胸を張ると、腹筋もくっきりと現れた。尻の横がキュッとへこむ。大腿筋が盛り上がる。俵屋さんの筋肉は、男の俺が見てもカッコいいと思う。
赤フン野郎たちが肩を組んで、ヒット曲の替え歌の応援歌を歌う。俵屋さんは、中央で拳を振り上げながら歌っている。カッコいいなあ…色黒だから、海の男って感じがする。きれいに灼けているから、日サロで灼いたんだろうな。お尻には水着の跡も無い。
紅組の応援が終わり、今度は白組の応援の番。俺は雛壇の一番後ろで太鼓を叩く係だけど、俵屋さんの応援に負けないぐらい、力強く叩いた。もちろん、笑顔も絶やさない。
もし俺が芸能界デビューしてなくて、家でこの番組をたまたま見たら“何くだらないことやってんだ”なんてチャンネルを変えただろう。女性の間では、地下アイドルや新人俳優の青田買いができると評判らしいが、今年のオンエアも“くだらない”とチャンネルを変える人もいるだろう。
それでも俺は、全力で仕事してやる。
今までロクな役はなかった。この間のヤラセドキュメントの被害者役で、やっとまともな台詞があったぐらいだ。
今日はインタビューもある。顔がアップで映る。後々、黒歴史と笑われようと、俺はこの番組に賭ける!
応援合戦が終わった後、休憩時間になった。一度でもプールにつかった人は、フンドシを外しシャワーを浴びて体を拭き、新しいフンドシを締める。一度濡れたフンドシは締めなおしにくいそうだ。
休憩の後、収録再開。次の競技は、『妨害に負けるな! スイスイ丸太リレー』だ。ビニール製の丸太にまたがり、オールで漕いでプールを渡って次の選手にバトンタッチする、リレー形式の競争だ。
俺たち選手じゃない者も、参加しなくてはならない。柔らかく小さなゴムボールがたくさんあって、それを相手チームの選手に投げて妨害する役目だ。ホースで水をかける役もいる。
スタートの合図で、丸太がスタートした。紅組の丸太に向かって、プールサイドからボールを投げる。子供用のボールプールなんかに入ってそうなボールだから、体に当たっても怪我は無い。けどルールでは、首から下を狙うこと。ホースの水も、目を直撃しては危ないから、首から下を狙うんだ。
両者接戦のまま、紅組白組ともにアンカーの番になった。というか、リハーサルでは“盛り上がりのため、スピードは最終までバレないように合わせてください”とのことらしいからな。
俺はボールを、俵屋さんの丸太に当たるように狙った。みんなのボールがほぼ一点に集中し、ピンクや黄色などのカラフルなボールが次々当たる。その拍子に、俵屋さんがバランスを崩した。前のめりになり、フンドシの前袋が少し浮いた。ヤバい! 見えてしまった! 毛を剃ってるから、隠れる物が無いんだ。
…今何で俺はドキドキしたんだろう…。丸見えになったからかな。着替えのときにチラッと見たけど、今のはそうじゃなくてフンドシの隙間から見えたから、逆にエロティックっつーか…。
横から追ってるカメラに映っただろうが、カットはせずボカシを入れるだろう。この番組は、そういう“アクシデント”が見ものらしい。だから、スタッフも手伝ってくれるプールの従業員も全員、男性でそろえてるんだ。
紅組のアンカーが、白組の放水に当たってひっくり返った。放水は俵屋さんまで直撃し、俵屋さんもひっくり返る。水から上がるとき、また前袋が少し浮いてタマが見えた。
…また、ドキッとした。もはや言い訳はできない。俺の下半身は半勃起していた。何で男性器を見て勃起しかけたのかは、わからない。その後休憩時間が来たので、俺は助かった…。
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