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第4話

 休憩を挟んだのは、次のコーナー『プールサイドの花、というより雄しべ フォトジェニックショー』のため。フンドシを水が滴らない程度まで乾かす必要があるんだ。  俺たちが締めているフンドシは、木綿の晒し布だ。水に濡れて透けたりしないか心配だったけど、案外しっかりしてる。昔の人の水着って、フンドシだったもんな。  室内プールは暑い。おまけにライトも当たるから余計だ。かなり汗をかく。水につかっている間なんて、汗をかいたことに気づかない。だから熱中症を防ぐために、スポーツドリンクや水の補給がある。  ありがたい。実にありがたい。体をクールダウンさせて落ち着ける。俺は危うく、俵屋さんの股間で勃起しかけた。なぜだろう。確かに俵屋さんはガタイがよくてイケメンで、尻の形もいいし男の俺が見ても憧れる感じだ。  でも、それと興奮するかどうかは別だろう。なんともモヤモヤする。俵屋さんと顔を合わせるのが気まずくなりそうで。しかし、この収録が終われば、次に俵屋さんに会うのはだいぶ先になるか、もしくはずっとこの先会わないかもしれない。だから、気に病むことはない。  そのはずなのに、“この先会えない”と考えたら、胸の辺りが苦しい。もっと話をしてみたい…。いや、変な意味じゃなく、役者としてアドバイスとか、今までどんな仕事をしたとか、そんなことを聞いてみたい。ただ、それだけなんだ――  手にした紙コップを、クシャッと潰した。俺の煩悩も、いっしょに潰れてくれただろう。  休憩が終わり、本番再開。 「さあ、続きまして~『プールサイドの花! というより雄しべ フォトジェニックショー』~!」  プールサイドに丸いステージが置かれていて、その後ろには赤いカーテン。中から一人ずつ出て来て、ボディービルダーよろしくポーズを取る。  これは競技ではなく、単なるサービスらしい。出場者は、紅白二人ずつの計四人。いわゆるインスタ映え、に近いんだろうけど、七年前から使っているのか、タイトルが古くさい。  重いビートのBGMが流れる。アシスタントのアナウンサーが、エントリーナンバーと出場者名を読み上げる。カーテンが開き、中から現れたトップバッターは、アイドルグループの男の子。紅組白組関係なく、拍手や口笛が鳴り響いて場を盛り上げる。浅黒く日焼けした茶髪のアイドルが、ポーズを取る。痩せているけどガリガリってわけじゃなく、胸板はやや厚めかな。金のネックレスがよく映える。俺も体には少々自信はあるが、あの甘いマスクには負ける。フンドシ姿でポージングは恥ずかしいけど、フォトジェニックに選ばれなかったのは、少し残念だな。  一人目が終わるとBGMがヘヴィメタルに変わって、次の出場者が現れる。これは体格のよさもあるけど、顔で選んでるな。そういえば、台本には俵屋さんの名前もあったっけ。  紅組最後の出場者の番が来た。 「エントリーナンバー8、紅組、俵屋豪!」  BGMは、アップテンポのエレクトリックサウンド。カーテンが開き、俵屋さんがステージに立った。両腕でガッツポーズをすると、上腕二頭筋が盛り上がる。胸や腹にも力を入れてるのか、鎧のような胸筋とシックスパック――いや、力を入れるとエイトパックだ!――が露わになる。  片膝をつき、ガッツポーズのまま右肩を斜め下へ。まるで本物のボディービルダーみたいだ。筋肉が美しい。  今度は後ろを向いてポーズを取り、背中の筋肉をアピール。首をひねって、カメラ目線でウィンク。キュッとしまったお尻の筋肉がカッコいい…。あのお尻なら、顔をうずめてみたい…。  ――って、俺は今一瞬、何を考えた?!  俵屋さんは、今度は左を向いて左脚を少し曲げ、ゆっくり腕を回して右手で左手首をつかむ。肩や胸筋を見せ、ついでに白い歯を見せてスマイル。確かボディービルで、サイドチェストと呼ばれるポーズだ。上半身だけでなく、ハムストリングのラインの美しさを強調している。  正面を向いて腕を曲げ、脇を開けて拳を強く握りしめ、上半身をやや前傾させ――モスト・マスキュラーっていうポーズだ。 人間の筋肉って、こういう風になってるのか、とわかる標本みたいにクッキリと筋肉が浮かび上がる。  ポーズを取るたび笑顔を見せているが、実際に筋肉を浮き立たせようとすると、かなりの力を使う。笑ってなどいられない。世のボディービルダーも、俵屋さんも凄い…!  そして俺は、サオがまた硬くなりかけてしまった。た。マズい! 頼む! 鎮まってくれ!  …ヤバかった…。完全エレクトになる前に、俵屋さんは一礼をしてカーテンの後ろに消えた。 「さて、以上でフォトジェニックのコーナーは終わりですが、最後に特別ゲストの登場です」  アナウンサーの紹介でカーテンから現れたのは、司会を務めるお笑い芸人。痩せた体でボディービルダーのようなポーズを取り、変顔をして、持ちネタのギャグを披露する。雛壇もスタッフも大爆笑だ。 …司会者さんのおかげで助かった…すっかり萎えたから。

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