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第6話
フンドシだと組みにくいから、本格的な廻しを締めるそうだ。選手一人につき、補助のスタッフが一人つく。フンドシと同じように布をまたいで、端を胸元で押さえておく。スタッフに指示されて、左手で後ろの縦みつを腰の辺りで押さえる。
「はい、時計回りに回ってー」
ゆっくりと時計回りに回ると、スタッフがギュウッと締めつけながら、俺と逆の反時計に回る。この人、かなり手際いいぞ。見たところ俺より十歳ぐらい上かな?
二回転したところで止められた。
「そっちの端、ちょうだい」
フンドシだと端は股を通してねじるが、廻しの場合は折って、横みつの間に巻きつける。最後に縦みつが外れないように下からギュッと縛る。
でも、思ったよりキツくはない。ベテランさんだから巻き方がうまいのか。それとも逆に、経験が浅いのか。心配になって俺はスタッフに聞いた。
「これ…ほどけたりしませんよね?」
横みつをポンポンと叩き、スタッフが笑う。
「大丈夫、大丈夫。普通に立ったり歩いたりしただけじゃ、ほどけることはないよ」
普通にって…相撲は強い力で引っ張られるんですが。しかも初戦は俵屋さん。筋トレしてるって言うから、絶対に力が強いよ。
「ま、ポロリはAV男優の担当だからね。組んだときにほどけやすいよう、調節してあるけど」
AV男優はポロリ要因…。俺はこのフンドシ水泳大会は見たことがないが、毎年フンドシが外れるポロリはあるそうだ。もちろん、テレビだからボカシは入るけど。今年はまだ、どの競技でもフンドシが外れるアクシデントはない。
まさか…ポロリがあるのは、相撲大会? でも、スタッフは“ポロリはAV男優の担当”って言ってた。そうだよな、アイドルがポロリじゃイメージが悪い。俺だって、いずれ俳優としてカッコよく活躍するんだ。そんな惨めな役回りはないはずだ。
よし、うっかりポロリにならないよう、相撲は初戦で負けておくか。八百長みたいだけど。
「裸ぶつかる! 水上相撲大会~ッ!」
プールの中央に、オレンジ色の浮島がある。直径約四メートルの円で、表面に白い円と二本の線が書かれていて、土俵になっている。浮島といっても下は支えられていて、しっかりしている。
十六名がトーナメント形式で相撲を取る。詳しいルール説明は、アシスタントがする。
「通常の相撲とは違い、土俵の白い線から出ても、手や膝などをついても負けにはなりません。先にプールに落ちた方が負けとなります。さらに、“不浄負け”も存在しませんので、あらかじめご了承ください」
隣で司会者が補足する。
「ということはですね、廻しがほどけても勝負は続行ということですね?」
アシスタントがうなずく。
「はい、そうなりましたら、つかむ所がありませんから、押すなり腕や足をつかむなりして、プールに落とす必要があります」
「さらに男性ですので、腕や足以外にもつかむ場所はありますね」
司会者のジョークに、雛壇からドッと笑いが起こった。
取り組みが始まった。俺と俵屋さんは、四戦目。待機中の選手(力士?)は、カメラに映らない場所で腰にバスタオルを巻いて立っている。待機中、体が冷えないようにだそうだ。
俺の前に取った三組とも、ポロリ”があった。四つに組んで強く引くうちに、廻しの結び目がほどけた。
後ろでスタッフ同士の話し声が聞こえる。
「この番組でAV男優が活躍できる場面っつったら、これだよな」
「まあな。だからAV男優の廻しは緩めにされてるし」
ポロリはアクシデントではなく、仕組まれていたのか…。
「しかし、男のポロリなんて、見ても楽しくねーわな」
「まあ、視聴者はほぼ女性らしいからな。この番組が出来たいきさつも、女性団体から“女性だけの水泳大会は子供の教育上、不道徳”だの“痩せた女性が水着姿を見せることにより過剰なダイエットを助長させる”だのと文句が来たから、なんだとさ」
高視聴率をマークする女性の水泳大会をやめるわけにはいかない。さりとて、このままでは女性団体がうるさい。苦肉の策として男性だけの水泳大会を放送したところ、女性団体からの苦情がピタリとやんだとか。さも道徳的な理由を盾にとっていた女性たちも、とどのつまりは男性の裸を見たかっただけなのか…。
それより、AV男優はポロリ要員らしいから(それは社長も言ってた)、俺はポロリの心配はないらしい。
「今年は全員、AV男優だろ?」
「いや、AV男優の一人が事故って今はリハビリ中だとかで…一人普通の俳優混じってるらしいけど」
「ええっ?! 俺、上からの指示で全員結び目を緩めにするって聞いたけど」
なにぃ~ッ! それは俺の廻しも入っているのか?!
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