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第7話

…もしや俺の廻し…結び目がゆるいんだろうか。いくらボカシが入るとはいえ、全国ネットでポロリをしてしまうのか。情けない…。俺の知名度が低いために、スタッフにAV男優と間違われた…。  と、今更嘆いても仕方ない。それならば結び目がほどける前に、プールに落ちてしまえばいい。  俺と俵屋さんが対戦する番が来た。浮島に登り、白い仕切り線に拳を置く。俵屋さんは、余裕の笑みを浮かべている。この体格差だから勝負にならず、俺が俵屋さんに一気に押されてプールに落ちても、誰もわざとだと疑わないだろう。それに俺は相撲で負けたところで、競泳で活躍したから社長も機嫌を損なわない。  アロハシャツのままで烏帽子に軍配、という姿の司会者が、プールサイドから声をかける。 「両者見合って、はっきよ~い!」  ホイッスルの合図で立ち上がり、俺は俵屋さんの廻しを、俵屋さんは俺の廻しをつかみ、四つに組む形になった。ズイイ~ッと、土俵の端まで押される。これは八百長なんかやらなくても、全力でも落ちてしまう!  俺は歯を食いしばり、こらえた。本物の力士なら、体格差があっても投げ飛ばしたり吊り出したりができるが、そうもいかない。居酒屋のバイトで重いビールケースなんかを運ぶことはあるが、それでも人間ほどの重さではない。  重い、落ちてしまう――そう思った瞬間、廻しをつかんでいた腕がズレたような感じがした。同時に、俵屋さんがガクンと大勢をくずした。俺も俵屋さんも、廻しの結び目がほどけたんだ! という事実を知ったとき、足が滑って俺はプールに落ちた。 溺れる者は藁をもつかむ。人間、とっさのときには何かをつかもうとする。俺は俵屋さんの廻しをギュッと握ったままだった。俵屋さんも廻しにつられて、プールに落ちた。  そこからは、スローモーションのようなできごとだ。  あお向けの状態でプールに沈む俺の目の前に、全裸の俵屋さんが落ちてきた。俵屋さんは落ちた瞬間に平泳ぎのように両腕で水をかいて水面に上がろうとした。俺も水面に出ないと苦しい。体勢を変えようとしたら、指が何かに当たった。何かなんて、確認しなくてもわかる。“ナニ”だ。毛が無くてツルンとしてる。剃り跡も無い。柔らかくて…気持ちいい…もっと…触っていたいような…。  いやいや、俺はどうしたんだ?! ナニを触って何を考えてるんだ?!  全裸のまま端まで泳ぎ、タラップにつかまると、後ろの俵屋さんを振り返った。 「すみません…」 「いいよ、俺こそゴメンね」  俵屋さんのスマイルに、ドキッとした。そこで気づいてしまった。俺…半勃ちだ…。それなのに、カメラが回っている。ハンディカメラを持ったカメラマンが、俺と俵屋さんが上がるところを捉えようとしている。 …マズい…。放送ではボカシが入るかカットになるだろうけど、半勃ち状態をここにいる全員に曝してしまう。それは恥ずかしい。このご時世、誰かがネットで暴露するに違いない。いや、俺なんて無名だから、誰も言わないか。  そんな風に上がるのをためらっていたら、後ろから俵屋さんがタラップの手すりを握り、俺に“先に上がらせて”と耳打ちした。その低くささやく声に、ドキッとした。 「カメラさん、恥ずかしいからやめてよ~」  と明るい笑顔で堂々と上がる。パイパンの股間は、カメラにバッチリ映っている。 「お二人とも、大丈夫ですか~?」  司会者とアシスタント、それに俵屋さんがやり取りしているが、俺には内容が入ってこない。俵屋さんの方を見られない。完全勃起してしまう。何てこった…男相手に…。  俵屋さんはそのままスタッフの所まで行き、バスタオルを受け取ると一枚を自分の腰に巻き、一枚を持ってプールまで戻ってきた。カメラの前に立ち、バスタオルを広げる。 「上がっておいで」  俵屋さんに助けられ、俺はタラップを上った。急いで上がってすぐにバスタオルを巻いたから、半勃ちしてるのは誰にも見えていないはずだ。ただ、俵屋さんには見られたかもしれない。 「ありがとうございます」  頭を下げると、俵屋さんは笑顔のまま黙って俺の背中を軽くポンと叩き、二回戦目のため、廻しを締めに行った。  俵屋さん…見た目だけじゃなく、性格も男前だ…カッコいい。そう思ったとき、俵屋さんへの感情は、誤魔化しきれないものとなった。  俵屋さんが好きだ。憧れなんてもんじゃない。恋愛感情で好きだ。俵屋さんのパイパンチンコを触ったとき、もっと触ってみたいと思った。俺の手で、もっと大きくしてあげたいって。  そういえばスタッフ同士の会話で、この相撲大会は俺以外全員、AV男優だとか言ってた。もしかして、俵屋さんも…?  AVは見たことあるけど、女優の名前だってそんなに覚えていないのに、ましてや男優なんてわからない。もしや、知らない間に俵屋さんが女優相手にエッチしてるとこ、見ていたのかなあ。  何て考えたら、胸の辺りが痛くなった。嫉妬だ。そんなことを素直に認めるほど、俺は俵屋さんに恋をしてしまったのだ。

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