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第8話

 一人一回、廻しの結び目がほどけた相撲大会の優勝は、俵屋さんだ。  すべての競技が終わった。エンディングのため、俵屋さんたちも廻しからフンドシを締めなおす。選手全員フンドシ姿で結果発表。今年は初の同点引き分けだった。MVPは赤組から俵屋さん、白組からは騎馬戦とフォトジェニック、競泳のリレーに出たアイドルの子。俺は敢闘賞をもらった。 「また来年、お会いしましょう~!」  出演者全員でカメラに向かって手を振り、収録が終わった。外はもう、暗くなり始めている。芸能界に入って、一番長丁場の仕事だった。ほとんど遊びのようなもので、水泳は俺の得意分野だし、さして疲れはない。実際の映画やドラマの撮影だと、もっと大変だろうな。 …そうだ、俵屋さん! もし、俵屋さんがAV男優なら、俺がこの番組に来年出られなければ二度と会えないかもしれない! せめて連絡先だけでも聞いて、都合のいい日にいっしょにメシ食いに行けたら…! “お疲れ様です”の声が飛び交う中、俺は必死に俵屋さんを探した。プールサイドにはもういない。更衣室か、その奥の風呂場か。俺は更衣室を通り抜け、風呂場に向かった。途中、俵屋さんはいなかった。脱衣所には、フンドシ姿の野郎ばかり。順番を待っているんだろうか。風呂場の中を覗くと、お湯が張られていない湯船やサウナ、洗い場のほかに個室のシャワー室がずらりと並んでいる。シャワー室は全て埋まっていた。この中に俵屋さんが…? もしそうだとしても、一つ一つ扉を開けるわけにはいかない。出て来るまで待つしかないのだろうか。 「本日、女子シャワー室も解放しておりますので、お待ちの方はどうぞ~」  今日は女性がいない。特別に女子シャワーも使わせてもらえるんだ。スタッフの声に、ぞろぞろと女子シャワー室に向かう野郎たちもいる。その一団が通路に消えてフンドシ野郎がまばらになった後、俵屋さんの姿があった! 俺と目が合った俵屋さんは、白い歯を輝かせてニッコリ笑顔を浮かべた。 「山田君、探してたんだよ」  ええっー?! 俵屋さんも俺を探してくれてたんだ! 「その…、よかったら連絡先を知りたいなって」  少し照れながら頭をかく俵屋さん。性格が男前なだけでなく、可愛い面もあるのか。 「あ、あの…俺も…俵屋さんの連絡先…知りたくて」 「本当?」  俵屋さんは嬉しそうな笑顔を浮かべたが、すぐに真顔になった。しかも、真っ赤っか…。なんでだろ…? 「あーっ!」  そこで気づいた。俺の廻し、前袋が盛り上がっている。そうだ、勃起してしまったんだ。  もうダメだ。俺はダメだ。理性が抑えられない。嫌われるかもしれない。気持ち悪いって、思われるかも…。  でも俺は、自分の気持ちに嘘をつけない。そう、俵屋さんを見て勃起する体になってしまったのだ。  風呂場への扉がカラカラと開いた。 「あ、お先です」  アイドル二人が、俺たちに会釈した。彼らに股間が見えないよう背中を向けて、肩越しに“どうも”と会釈を返す。  個室が開いた。俺は後先考えず、一つだけ開いた個室に、俵屋さんの手を引っ張って無理やり連れこんだ。構わないだろう。俵屋さんだって、前が膨らんでいる。  俺は俵屋さんの肩に手をかけ、狭い個室の壁に背中を押しつけた。ちくしょう、俺の方が背が低いから、カッコつかねえ。 「ほ…本来なら…いっしょにデ、デート…出かけたりしてメシ食ったりとか、段階を踏んでからなんだけど…。もう――抑えがきかなくて…」  下半身ギンギンです。布に押さえつけられたチンコが窮屈で痛いです。あなたとイヤらしいこと、いっぱいしたいです。そうストレートにも言えないから、たどたどしく言葉を選んで話す。いや、こんな状況でもはや照れも何もないんだけど。  もちろん、両隣とは壁一枚隔てただけだから、声は小さめだ。でも、内容はわからずとも、何か話しているとバレないだろうか。 「俺も…同じだよ」  ゴツい指で、顎をすくわれた。なんと俵屋さんの方から、キスをしてきた。チュッと音を立てて離れたかと思うと、今度は強く唇を押しつけられ、舌が入ってきて俺の舌を煽るみたいにレロレロ動き出した。  そこまで挑発されたら黙っているわけにもいかず、俺も舌を出して応戦する。ただ動いているだけじゃなく、本当に気持ちいい。俺の体が舌だとしたら、柔らかい羽毛布団に全身が包まれて、誰かに優しく撫でられているみたいな。  この人、キスの達人だ! 歯の裏を舌で舐められたら、歯茎が気持ちいい。ああ、このまま俵屋さんの舌が口の中に一生あればいいのに。  俵屋さんの腕が背中に回り、ギュッと抱きしめられた。俺も俵屋さんの背中に腕を回す。俺の体は、汗ばんだ筋肉に包まれている。ここは極楽浄土か…。広背筋が発達してて、デコボコしている。シックス、いやエイトパックスの腹筋の外側もお肉増し増しで…なんて脇腹を撫でてたら、唇同士が触れた状態で俵屋さんが、“くすぐったいよ”と笑いながら言う。  ヘソ下辺りでは、前袋で押さえつけられた俵屋さんのペニスが、ビクビク動いている。俺も少し背伸びして(俵屋さんの方がチンチンの位置が高いから)、布越しに擦りつける。あ、今亀頭同士が当たったな。俵屋さんも腰を動かして、布の摩擦を感じている。上下に左右に腰を振り、求愛ダンスを繰り返していたら、俵屋さんは前袋の隙間に指を入れ、俺のペニスを取り出した。  俵屋さんも自身を取り出し、今度は直接亀同士がキスをして求愛する。完全に剥けている俵屋さんは先がきれいなピンク色だ。俺は仮性包茎だから、擦り合うたびに皮で隠れたり顔を出したりしている。まいったな、興奮して毛穴が開いたせいか、剃り跡がチクチクしてきた。俵屋さん、痛がらなければいいが…。  そのうち俵屋さんは二本まとめて握った。亀頭同士がランデブーしたかと思いきや、すぐに二機の戦闘機はドッグファイトを始めた。俵屋さんが思い切り強く擦りだしたのだ。  俺も股間に手を伸ばして触れる。俵屋さんのは剃り跡が無い。チクチクしない。ツルンとして気持ちいい。皮膚がモチモチしている。きっと紫外線に当たらないから、肌がすべすべなんだろう。

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