思わず叫びそうになった“ゲイビ?!”の言葉を、ウーロン茶といっしょに飲み下した。グラスを置くと、俵屋さんと同じように身を乗り出し、小声で聞いた。 「ゲイビって…ゲイビデオ…ですよね？」 　コクン、とうなずいた俵屋さんは、白菜のキムチにくるんだご飯を食べて話を続ける。 「君ぐらいのころ――二十三のときに、生活費のためにゲイビデビューしたんだ。スカウトされて。で、最初は君みたいにバイトしながらだったんだ。四年前、初めての水泳大会に出て職場にゲイビ出てるのがバレちゃって…」 　四年前も、ガタイがいいからとフォトジェニックのコーナーに出場させられたそうだ。そのときにゲイビ男優だと紹介され――じゃあ、今年も同じように紹介されてたのか。俵屋さんの体にみとれて半勃起して焦ってたから、何も聞いてない。 「今はバイトはしてないんですか？」 「うん、今の仕事だけで何とか食っていけるからね」 　食っていける…それは、ゲイビに何本も出てるから。何人もの男とセックスしてるから。今日俺がしたように、知らない男にイラマチオされたんだ。それが、俵屋さんの仕事。 　理解しなきゃいけない。俵屋さんは、生きていくために他人とセックスしてるんだ。キスもフェラチオも、エッチなこといっぱい―― 「山田くん…？」 　肉は全部はけて、網だけがむなしく焼けている。飯は残っているのに、俺の箸も口も止まってしまった。“次、ウィンナーでも頼む？”と俵屋さんが気遣ってくれる。きっと俵屋さんは、俺が黙りこんでしまった訳を知っている。俵屋さんだって、恋愛経験があるはずだ。ゲイビに出ていることを知って、相手は悔しくて嫉妬して、俺みたいに沈んでしまって、俵屋さんに気を遣わせたんだろうな。 　俺も悔しい。俵屋さんの口もアヌスも、ほかの人のチンコで埋まっていると考えるとこれから先、穏やかでいられるだろうか。 　俵屋さんが心配そうに俺の顔を覗きこむ。“山田くん？”なんて、優しく呼んでくれる。 　そんな俵屋さんが気の毒だから、誰が見ても作り笑いと思えるような下手な笑い方で、俵屋さんを安心させようとした。 「あの…大丈夫ですよ。だって俵屋さんは仕事だから仕方ないし」 …俺は俳優のくせに縁起が下手だな。もともと学生時代から芝居をやってたわけじゃないし。余計に俵屋さんの眉を下がらせてしまった。 　テーブルに届いたウィンナーを、俵屋さんが網に乗せる。焼きあがるまで、二人とも無言になってしまった。 「俺、ゲイビやめるよ」 　ウィンナーを焼く音に混じり、俵屋さんがぽつりと呟く。 「や、やめるって、そんな簡単に…。生活するの大変じゃないですか」 　焼きあがったウィンナーを俺の皿に置き、俵屋さんはにっこりと笑う。 「だって、別に思い入れのある職業じゃないからさ。知り合いが引っ越し業者で働いててさ、ガタイがいいし力もあるから、うちに来ないかって誘われてる。アルバイトから正社員への登用もあるみたいだし」 　それを聞いた俺は焼肉パワーもあったせいか、さらに激しい第二戦に突入できた。 　あれから二か月、夏真っ盛り。『第八回　雄尻だらけのフンドシ水泳大会～ポロリもあるかも?!　で～んぶ見せちゃう♪』の放送は地味に好評だった。 　ネットでエゴサしたら、競泳で活躍した俺の評判もまあまあで、おかげで台詞のあるチョイ役が来た。その上、あまり重要性のない役だが、ドラマの仕事も来週から始まる。 　そして俺は、仕事の合間に少しでも時間があると、俵屋さんのアパートに来るのだった。 　晒の木綿を股にくぐらせる。フンドシの締め方も、うまくなったもんだ。前袋ができたら、後ろの縦みつに余った布をねじこんで残りを腰に巻き付け完成。 「俵屋さん、準備できたよ」 　くるっと振り返ると、布団を敷いていた俵屋さんが立ち上がり、俺を抱きしめる。その俵屋さんも、フンドシ姿だ。 　あれから俺たちは、セックスするときはフンドシ着用だ。前袋に押さえつけられたタマが気持ちいい。縦みつをずらして現れる尻の割れ目がセクシー。それに下着着用でセックスできるなんて、変態っぽくて燃え上がる。 　ただし、難がある―― 「ごめん…俵屋さん…トイレ」 　フンドシのまま前袋をずらせば放尿はできるが、下手をすると締めなおさなくてはならない。それが、パンツよりも厄介なところ。 「しょうがないな、ほら、おいで」 　と、俵屋さんに手を引っ張られ、トイレに連れて行かれた。ドアを開け、便器の前に立たされる。 「別に、トイレの場所ぐらい知ってますよ」 「いいから、じっとしてて」 　なんと、後ろから俵屋さんが俺の前袋をずらせてチンコを出した。ギュッと握り、先を便器に向ける。 「ちょっ…、自分でするからっ」 「お願い…俺の前で…して」 　うわー！　禁断の放尿プレイになってしまうー！