17 / 20
第17話
瞳孔は開かれ
焦点の合わないまま
彼女は──動かなかった。
やがて雲が満月を全て隠すと、その静かな闇の世界に身を沈めた彼女は……薄く唇の端を持ち上げる。
………その目尻からこめかみに向かって伝い落ちる、一筋の涙。
それだけが、唯一残された彼女の感情だった。
もう、
声を上げる事も。
微笑む事も。
彼女には、備わっていない──
「……あれから彼女は、暫く休学して……
そのまま、一度も学校に来る事なく……転校した……
クラスの奴らは、過激な虐めのせいだと口々に言っていた」
「……」
「──でも、違う……!!」
藤井の瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。
それは、男を誘うような……ゆらりと揺れる妖しい色などは微塵もなく。
男の……一人の人間としての強い意思を持ち、絶望にも似た深い闇と強い後悔を孕んだ……鋭い瞳──
「……違うんだ……
俺の、せいだ。俺の……せい……」
「……」
──あの時の、彼女の瞳。
壊された、表情。
無残な姿──
その光景が、藤井を捕らえて
苦しめている……のか……?
地面に額を擦り付けるようにして掻き集めた羽根を、抱くようにして藤井が頭を抱える。
崩れた身体。
その太腿や臀部、背中を月明かりが蒼白く照らし、陶器のように妖しく光らせる。
浮き上がる肩甲骨。その影をくっきりと刻ませて。
「………なぁ、藤井」
藤井の顔近くに近付いてしゃがみ込み、声を掛ける。
ともだちにシェアしよう!