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第17話

瞳孔は開かれ 焦点の合わないまま 彼女は──動かなかった。 やがて雲が満月を全て隠すと、その静かな闇の世界に身を沈めた彼女は……薄く唇の端を持ち上げる。 ………その目尻からこめかみに向かって伝い落ちる、一筋の涙。 それだけが、唯一残された彼女の感情だった。 もう、 声を上げる事も。 微笑む事も。 彼女には、備わっていない── 「……あれから彼女は、暫く休学して…… そのまま、一度も学校に来る事なく……転校した…… クラスの奴らは、過激な虐めのせいだと口々に言っていた」 「……」 「──でも、違う……!!」 藤井の瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。 それは、男を誘うような……ゆらりと揺れる妖しい色などは微塵もなく。 男の……一人の人間としての強い意思を持ち、絶望にも似た深い闇と強い後悔を孕んだ……鋭い瞳── 「……違うんだ…… 俺の、せいだ。俺の……せい……」 「……」 ──あの時の、彼女の瞳。 壊された、表情。 無残な姿── その光景が、藤井を捕らえて 苦しめている……のか……? 地面に額を擦り付けるようにして掻き集めた羽根を、抱くようにして藤井が頭を抱える。 崩れた身体。 その太腿や臀部、背中を月明かりが蒼白く照らし、陶器のように妖しく光らせる。 浮き上がる肩甲骨。その影をくっきりと刻ませて。 「………なぁ、藤井」 藤井の顔近くに近付いてしゃがみ込み、声を掛ける。

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